2024年4月17日水曜日

脳の健康を保つための10の習慣

        高齢者健康医学センター 素戔嗚プロジェクトリーダー 森田明夫


先日、寺岡記念病院・ローカルコモンズしんいちの手作りマルシェ開催に併せて高齢者健康イベントを併催させていただきました。内容は私のイントロに続いて木村みどり講師による朗読会、そして板橋千代美講師によるWalking イベントです。どちらの取り組みもとても素晴らしく、板橋先生のWalkingイベントは好天にも恵まれ空気の澄んだ素戔嗚神社で、歩き方のエッセンスを学ことができました。
私のイントロは、これまでの私の40年超の脳神経外科医としての人生と、昨年1年間で学んだ高齢者の健康医学に関するエッセンスをまとめたもので、小冊子にまとめましたので、寺岡の外来においてもらうように頼みます。ぜひ手にとって参考にしてください。

今回はその10項目についてまとめます:



 

1. 生きがいを持って。いつも笑顔に!
生きがいという言葉は日本にしかないらしい。精神的な意味合いと(はりあい とか、心の豊さを求めること)、物理的な意味合い(裕福とか、金銭とか物欲など)を併せ持っています。生きがいを持って、社会との結びつきを持っている人たちは、健康でいることが多く、生きがいを保つためには、心に余裕を持って、ストレスをなくしていること、よく眠ることも重要です。そして、何をするにも笑顔を忘れないことです。欧米で行われた大規模研究でも、全く声出して笑わない人は、毎日声を出して笑わない人に比べて3倍認知症になりやすいと言われています。年齢・性別でみると高齢になるにつれて声を出して笑わない率が増えてくるし、その傾向は特に男性に強いそうです。「男は黙ってサッポロビール」ではなく、「男は笑ってエビスビール」を心がけましょう。ビールの銘柄は何でも良いですし、もちろんビールでなくても、皆で楽しく過ごすのが健康を保つ最も重要なことです。また後で朗読や歌や運動の話もしますが、特に筋トレなどしかめ面でやっているとロクなことはありません。膝や手首を壊す元です。楽しく笑顔で運動もしましょう。

 
2. さあにぎやかにいただく!
次に食事の内容ですが、「さ・あ・に・ぎ・や・か・に・い・た・だ・く」で代表される様々な食材を摂ることが大事です。偏食:特にカップラーメン毎日なんて早死にするための習慣です(かくいう私もカップラーメン大好きで、安藤百福さん(横浜に博物館がありますが)には足を向けて眠れません。)!週1回くらいにしましょう。
摂るべき食事で大事なのは、まずは水!です。水は1日に1Lを摂る必要があります。お茶やコーヒーはカテキンなど良い成分もあるのですが、カフェインは利尿作用があるため、もしコーヒーを飲むのであれば、その分倍水を飲む必要があります。欧米では1日1.5Lと言われていますが、日本の食事はパンのようなパサパサした物ではなく、ご飯のように食事そのものに水が含まれているものが多いので少し少な目でも良いとのことです。もう一つはタンパク質です。タンパク質は毎日失われているので、1日に体重の数字グラムのタンパク質を摂る必要があると言われています。肉には大体20%のタンパク質が含まれているので、体重60kgの人は鶏肉だけでタンパク質を摂ろうと思ったら300g食べないといけないことになります。それはなかなか難しいので、朝・昼・夕に魚や豆腐、豆、肉などに分けて摂って行くと良い。また骨やタンパクを体に同化させるのに活性型のビタミンDが必須とされています。きのこ類、魚介類、卵、乳製品を摂る。よく陽にあたるなどが重要となります。
また最初のバラエティ食の中で、とくに健康に良いとされるのが、果物とナッツ、豆、乳製品である。以前紹介したBlue zoneではそれらが良く摂られているそうです。
 

 
3. ゆっくり食べて腹8分目
食事の内容に加えて重要なのが、食事の仕方です。どうも脳神経外科医などをしていると心に時間的余裕がなくて、早食いになってしまいます。私など、また早食い競争をすれば優勝できるかもしれないくらい食べるのが早かったです。そこを堪えてゆっくり食べることが、血糖の急激な上昇を抑え、食べる量を減らせる秘訣です。そのための大事な秘訣は一口一口必ず箸をおくようにすることです。そして30噛、可能なら50噛すると良い。食物の中には糖質が多くて血糖値がすごく速く上昇する(その度合いをGlycemic index(GIと略す)といいます)もの(うどんとかパンの白いところ、ケーキとか)があります。これらのものを食べるときもゆっくり噛んで食べることで、血糖の上昇は抑えられ、余分な皮下脂肪が増えるのを抑えることができます。色の濃い食べ物、そばとかパンの耳(フランスパンの皮)、カボチャも皮付きなどはGIが低くて血糖上昇を抑えられるようです。よく噛むことは口の筋力を高めて高齢になった時のむせや誤嚥を防ぐ(そういうのをきたし易い状況をオーラルフレイルといいます)ことができます。くも膜下出血の予後と側頭筋(噛む筋肉)の厚さが関連するという報告もあるくらいです。口の筋力を鍛えておきましょう。
そして腹8分目で終えることが重要です。また食事量ですが、できれば朝か昼を最も多い量にして、夕食は軽くするのがBlue zone流です。特に夜9時以降(本当は8時と言われていますが、なかなか医療者には守るのは難しい)の夕食はただ贅肉になるだけなので、9時過ぎに食べるくらいなら食べない方が良いです。Eat breakfast like a king, lunch like a prince, dinner like a pauper.「朝食は王様のように、昼食は女王様のように、夕食は貧民のように」と言われています。朝食・昼食をしっかり摂りましょう。

 
4. 大きな声で、しっかり話す・歌う
朗読や歌は脳の賦活に非常に良いとされています。NHKの今日の健康では以前福山にお呼びした飯島勝矢先生らが声を出して朗読するのと黙読の大きな違いを示されました。前者では前頭葉も大きく賦活されます。そして認知機能も口の機能も朗読によって大きく保たれます。読むものは何でも良いのです。新聞の見出しや社説や面白い記事、絵本、詩など大きな声でハキハキとなるべく速く読むことが良いようです。寺岡記念高齢者健康医学センターでは2024年2月から朗読会を先に紹介した木村みどり講師にお願いして月1ペースで開催しています。そちらに参加されても良いですし、カラオケが好きなら、お友達とカラオケにゆくのも良いでしょう。お孫さんがいらっしゃるなら本を読んであげましょう!

 
5. 心豊かにしっかり歩く
歩くことはとても健康に良いのはどなたもご存知と思います。でも歩くならぜひ良い歩き方をしてほしいです。そのために寺岡記念病院ではWalking classを3ヶ月に一度時間を取ってPosture Walking講師の板橋千代美先生に来ていただいて講義、実技をしていただいています。特に大事なのが、後ろの足を残して歩くこと。手をよく振ること。目線を水平から上にすること。足の筋肉の付け根は鼠径部ではなくおへその上の胸腰椎であることを意識することです。そうすると自ずと胸を張って歩くことができるようになります。その時も、あらいい金木犀の香り、沈丁花の香り、桜の色、紅葉、新緑など意識しながらにこやかに心豊かにあることが大事です。しかめ面で、1万歩!!!って唸りながら歩いても身になりません。膝でも壊すのが関の山でしょう。ぜひ一度Walking classに顔を出してみてください。靴の履き方(紐の締め方)がとても大事なことも教えてくれます。そちらから教えてもらったシューズラボ Cueという福山宝町にある靴屋さんの店主松下さんは、とても詳しくて個人の足の形に最もあう靴と紐の締め方を伝授してくれます。「日本人は履き物は下駄や雪駄と同じだと思っている。靴は違うのです。欧米では一回ごとに靴紐を結び直すのはあたり前です。」と教えてくれます。


6. しっかり体操・筋トレ5分
テレビの筋肉体操でお馴染みの谷本道哉先生にも本年2月に福山に来ていただいて「人生110年時代を目指す自宅でできる筋肉体操」という講演と実技練習をしていただいた。先生が推奨された3つの運動は①超ラジオ体操 特に背筋を鍛える。しっかりと背中を動かす運動(春日さんのカスカス体操をしっかりする感じ) ②5分の自宅でできる3種体操(机腕立て。しっかりスクアット。椅子腹筋) ③手をよく振って、歩ける距離は歩く。「100mは車!」では100歳はおろか80歳でも元気でいられるかわかりません。①、②はYoutubeビデオがあるのでそちらを参照(アンダーラインの文字をクリック)してください。手をよく振って歩くためにはかっこいいリュックを背負うことです。そうすると両手が空きます。そして繰り返しになりますが、筋トレや運動は笑顔で楽しくやりましょう。


7. 友達を作ろう
あなたには何人友達がいますか?親友と呼べる人は何人いますか?自分のことを親身になって話を聞いてくれる人は何人いますか? 友人数は平均10〜12名くらい、平均親友は3人だそうである。米国では最近その数が減ってきているそうです。1の生きがいにも関わってきますし、Frailの最も有効な予防手段は、誰かと一緒に何かをすること(食事も、散歩も、運動も、朗読やカラオケも)だそうです。NEAT(Non-exercise activity thermogenesis)という言葉があり、これが最も重要な要素とのこと。友がいれば生きがいや張り合いも生まれます。話し相手、笑い。色々なことが生まれますね。
写真は私がスイスのジュネーブに昨年行った時、美味しいビストロで一人で食事をしていたのですが、傍の机ではイケおじたちがビール飲みながらしっくりと夕暮れを楽しんでいました。いい環境だな~~と思いました。

 
8. 酒・タバコ控えめに
タバコは炎症性物質を血液中に出し、さまざまな臓器を苛立たせてしまいます。喫煙が原因で肺がんや脳動脈瘤破裂などをきたします。絶対に体に悪いので、完全にやめましょう。では飲酒は?昔「酒は百薬の長」などと、適度な飲酒は健康に良さそうなことが言われていましたが、現在WHO(世界保健機構)では一滴の酒も毒!とされています。アルコールが原因で引き起こされた疾病で年間300万人が亡くなっているとのことです。でもまあ私も飲むのが好きな方なので、すぐさま止めるのは難しいので、イタリア サルディーニャ島(Blue zoneの一つ)の飲酒法から。カンノナウという品種(フランスではグルナッシュ)のブドウでできた赤ワインはポリフェノール含有量が多く、1日2杯飲むと健康に良いとされています。ですので、ギリギリ赤ワイン一日200mlまで。そして、水を倍量飲む、休肝日を週1~2日作る。ということで許してもらおうと思っています。


 
9. 塩・糖・脂控える(高血圧、糖尿、高脂血症加療)
高血圧、糖尿病、高脂血症は脳卒中や認知症をきたす三大リスクファクターです。どれも治療は可能ですので、ぜひ食生活の改善や治療で正常範囲にしておきましょう。
長年患者さんのMRIをみていると、ご高齢なのに本当にしっかりした脳で、曇りの一点もないひとがいらっしゃいます。そういう人は決まって、酒・タバコ一切せず、高血圧も、糖尿も高脂血症もありません。そういう脳の画像が理想的です。
それに加えて脳の大きな敵は不整脈です。脈が飛ぶ場合、必ず循環器の専門の先生にみてもらいましょう。不整脈(特に心房細動)による脳梗塞は非常に大きく重症となることが多いので、要注意!!です。

 
10. 年に一度は歯と全身の健康チェック
そしてぜひ年に一度は健康診断(ドック)と歯のチェックをしましょう。人間ドックでは血液少量からさまざまな癌の発症リスクもわかるようになりつつありますし、上下消化管の検査は日本人に多い胃がんと大腸がんを最も効率的に検知できる方法です。また心電図、心ECHO、腹部ECHO、頸動脈ECHO、脳のMRI, MRAではさまざまな危険因子を察知することができます。また最近注目されているのが歯の疾患と脳内血腫などとの関係です。脳出血の患者さんには歯がボロボロの人が多く、特殊な菌を保有していることが多いのです。歯のチェックもしっかり行いましょう。


 
以上私が考える脳の健康を保つための10項目を挙げました。人間の体は自分で努力したもの、食べたもの、飲んだものでできています。良い体には良い脳が保てるはずです。
みんなで、楽しく、笑顔で生きてゆきましょう。

雑談:
さて私ですが、4月から東京大田区にある東京労災病院という病院に本務を移しています。そちらでもブログ(別冊「労災の森」院長のブログ)を始めていますので、興味のある方はご覧ください。夜は羽田空港の発着を見ながら、料理して食べています。
    
イベント参加の皆様


2024年3月4日月曜日

筋トレと人間ドック

高齢者健康医学センター 森田明夫


運動が糖尿病や高血圧などの生活習慣病を改善し脳卒中や認知症を予防することはこれまで多く発表されていたが、最近の科学的な背景が明らかになってきたことを先日脳神経外科での勉強会で当院脳神経外科部長の竹信敦充先生が紹介してくれました。運動は血流改善によって脳血管や心臓の血流を改善し、海馬を肥大させるような因子を増加、神経の炎症を抑える、血管新生などのほか、従来運動をすると筋肉からなんらかの物質が出て脳や脂肪細胞を賦活することが予想されていました。これはミオカインと名付けられていましたが最近Irisin(イリシン、アイリシン)という細胞膜蛋白の分解産物が、ネプリライシンという物質の分泌を促進し、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの脳内蓄積を抑え、脳の神経細胞の障害を防ぐことが明らかになってきたとのことです(Neuron)。高齢者と若者に週3回以上40分程度のWalkingをしてもらった研究では、特に高齢者で本ホルモンの増加が認められたとのことです。元々この物質は脂肪細胞を褐色脂肪細胞というエネルギーを消費しやすい細胞に変化させることも知られていました。骨を振動させるなどの刺激も同様な作用を持つ物質:オステオカルシンとかオステオポンチンなどが出て海馬に作用したり免疫力をアップしたりするそうです。
では、どのように運動をすればということに関しては、1)歩行や水泳、ランニングなどに代表される有酸素運動と、2)筋肉を増量させるような筋肉トレーニングがあります。どちらが良いかということはなく、できる限り組み合わせて行うのが良いようです。1)の歩行についてはこれまでも何度かwalking classの紹介などをしてきましたので、今回は筋肉トレーニングについてまとめたいと思います。
2月4日(日曜日)にテレビ筋肉体操などに出演されている谷本道哉先生に福山に来ていただいて「人生110年時代を目指す 自宅でできる筋肉体操」という講演と筋肉体操指導をしていただきました。皆様の中にはNHKのラジオ体操をされている方もいらっしゃるかと思いますが、ラジオ体操ではまず『無理をせずに….』という注釈がつきます。確かに運動で体を痛めては仕方ないですし、痛いところがある場合にはそこは弱めにやる方がいいのですが、どうも膝を曲げて背中を伸ばしているつもりになったりという事例を紹介されました。やはりなんちゃって体操になってしまっているようです。そこで谷本先生は超ラジオ体操というのを紹介しています。YouTubeでは谷本先生のいくつかのセッション(新潟けんじゅ体操基本3種筋トレやはやは元気体操)やこの超ラジオ体操も紹介されていますので観て実際にやってみてください。これやってみるとかなり関節が柔らかくなる感じがします。ちなみNHKの番組は公共放送なのでYouTubeでの公開は許可されていないそうですが、この番組だけは例外とのことで、見ることができます。ぜひ載っている間に覚えましょう。
さて谷本先生の講演ですが、要旨はまず1)高齢者の定義が変わっていること。2017年日本老年学会が高齢者の定義を65歳から75歳に変え、65から74歳は准高齢者、高齢者は75歳から89歳、90歳以降が超高齢者となりました。ただ要は数字で高齢者を感じないことが大事。何歳でも筋肉は作れますし、若返ることができることを実例で示しています。ついで、2)谷本先生が私たちに毎日してほしいことを3つ挙げています。


①    朝起きたら1分間の超ラジオ体操で体を柔らかく姿勢を良くする。特に背中の筋肉を伸ばして縮める。背中を伸ばす! 
 
②    どこでも筋トレをする。5分でできる「いつどこ筋トレ!」です。


③    歩ける距離は歩く!(100m以上は車という常識はなくす)大きく手を振って歩く。 


 
特に最近は腹筋女子とか言って、腹筋を作ることが流行にもなっているようですが、実は腹筋ってあまり使われていない筋肉なので、腹筋を鍛えても体は強くならないのです。体を支えている筋肉は背筋であって、こちらの筋肉をしっかりトレーニングしておくことが重要です。また②の手を振って歩くためには、カバンを手に持つことを避ける必要があります。そのためにはカッコのいいリュックを購入することを薦められています。ちなみに谷本先生は黄色の大きなTHE NORTH FACEのリュック(Uber EatsやWoltの出前さんたちが使っているものの上級版)を使っていました。
これまでも紹介したFrailやサルコペニアなどについては、高齢者では特に重要な筋肉が痩せやすいこと。特に瞬発力に関与する速筋が萎縮しやすく、速筋は普通のゆっくりした歩行などでは増量できず、速筋を維持・増やすためには筋トレが重要であるとのことでした。また筋トレは一回ずつしっかりと深くすることで筋肉の伸び・縮みがしっかりされることで筋肉の成長が促されること。また重い負荷でなく低負荷でもこれ以上できないというところまで頑張れば、高負荷と同様な筋肉を増やす効果があるとのことです。また歩行など持久運動は、できるだけ早く歩くなどで普段の道をジムにすることができるとのこと。
いつどこ筋トレの主体は①しっかりスクアット(2秒で降りて2秒で上がる)②椅子腹筋(レッグレイズ)③机腕立て(胸をつける)そして④背中の屈曲とばんざい伸ばしです。
いつも谷本先生が言われているのは「やるか。すぐやるか!」です。筋トレは思い立ったら吉日!すぐに始めましょう。

 
ただこんなことを書いている私はといえば、東京から福山に来てまず歩行距離が激減、筋トレジムに行く機会も激減してしまい、毎朝部屋でする腕立て、腹筋、スクアットとショルダーレイズくらいしかできないのが現状で、さらに日頃のストレスか飲酒量も増えてしまい、、情けないくらいのリバウンド状態です。ちょっと追い込み筋トレに励んでみようと、、、思うのですが、すぐやってはいないです。


次の話題は人間ドックです。友人の紹介で彼の教え子がやられている新宿の人間ドック施設でここ4年間くらい毎年1回人間ドックを受けています。一般的な身長・体重・腹囲、眼底、視力、聴力、レントゲン、呼吸機能、癌のマーカーも含めた血液・尿検査、痰の細胞診、腹部ECHO検査に加えて胸・腹部のCT、プロポフォールという麻酔薬下で寝ている間に一度に上下消化管の内視鏡検査をしてもらっています。3日前から禁酒と繊維質の食事を控えめにして、当日早朝から腸内洗浄薬で腸内をきれいにしてから検査を受けます。4回もするとなれるかと思いますが、消化管洗浄はなかなか大変な作業です。ドックで病気がないことをチェックするのも重要ですが、でも年に一度腸内洗浄して消化管をきれいにすると身体中の毒気が抜かれてゆく気がします。実は1年目はなんともなかったのですが過去2回は大腸のポリープが見つかって(癌ではなかった)摘出してもらっています。それはどうも服用してた漢方薬が影響していたようだったので、この1年はその漢方や便秘薬を一切やめてみました。すると幸いなことに今年はポリープができていませんでした。そういった習慣での病気を発見する意味でも年に一度くらいは全身チェックをしておくことをおすすめします。また麻酔下で上下消化管内視鏡検査をやってもらうと寝ている間に辛い検査が終わるので、これはまたおすすめで、当院でもそのようなシステムができないかと考えています。
いずれにしても皆さんも年1のデトックスを目指して健診・ドックをされることをおすすめします。
ただまた残念なことは、私たるや今年はポリープがなかったので、何を食べても飲んでも良い(ポリープがあり摘出すると飲酒や強度な運動は1週〜1ヶ月 制限がかかります)とお墨付きをもらったので、当日から飲めや歌えや、、、の状況で、かなり反省しています。以前同施設でポリープ摘出後の方が、腸管穿孔をきたして救急搬送されている状況に出会いました。なかなか怖いですね。

運動と定期検診・ドック ぜひおすすめです。また暴飲・暴食は自制して、健康な生活を送りましょう。


雑談:
2月の第2週中心にサウジアラビアの友人に招かれてサウジアラビアの脳神経外科学会に呼ばれて行ってきました。元々私は中東の国にはイスラエル以外は行ったことがなく、サウジアラビアというとOPECの中心国で、王子がかなり乱暴なことをする。大きな国でほぼ全体が砂漠、アラビアのロレンス、メッカというイスラム教の聖地がある、、くらいしか知りませんでした。首都は、、、リヤドだったか?くらいの知識でした。皆さんもあまりよく知らない国ではないかなと思います。元々日本からの直行便はありません。ですのでいつも使っているANAで行こうとするとものすごい時間がかかるので、今回はやむなく(?)JAL系の路線を使ってリヤドまで行きました。学会はリヤドから2時間くらい飛行機で飛んでゆくサウジの半島(?)の南西端にあるGizanという街での開催でした。ちょっとフーシ派が暗躍しているイエメンとの国境近くで船がよく沈没されている紅海沿岸なので、ちょっとヒヤヒヤしながらの旅程です。スンニ派とシーア派という言葉を聞いたことがあるかと思います。イスラム教の2大宗派です。サウジアラビア、エジプト、イエメンなどはスンニ派、イラン、イラク、イエメン、シリアなどはシーア派が多くいる国として知られています。とはいっても国別ではっきり分かれているわけではなくサウジアラビアにもシーア派の人は10%くらい住んでいるとのこと。元々遊牧民の国ですから国境自体が曖昧な感覚で管理されてきましたので。でもその宗派でかなり考え方が違っています。その複雑な分布が国家での戦乱や不安定の要因ともなっているようです。
サウジアラビアの学会はとても若くて、今年で18年目(日本は78年)です。だからといって遅れているというわけではなく、国にはオイルマネーがたくさんありますから医療施設には最新の医療機器を備え、若手の優秀な人材を国家のお金で留学させて最先端の医療を学ばせてきます。その上外国人の優秀な医師を雇用しています。脳神経外科医の半数は外国人だそうです。現在サウジには250名ほどの脳神経外科医がいるそうですが、特に女性が多くて若手では半数以上が女性とのことです。元々イギリスの植民地でしたので、英語は第二標準語のように使われており、小さな商店でもどこでも英語が通じます。また教育や学会は全て英語でされています。学会では若手の学生や研修医のセッションが研究コンペティションや知識クイズセッションなど色々充実していて、若手の先生の目がキラキラしているのが印象的でした。私は医学生の研究発表の評価員をさせてもらったのですが、なかなか面白い視点の研究を学生がしっかりと発表していました。コメントや質問もしたら後で、色々学生さんたちから質問や日本での留学の機会などについて聞かれました。男性は例の白い長い服、頭には赤い網目模様のベールをして輪で止めています。この輪は昔ラクダで旅していた時の名残で、ラクダがいなくならないようにラクダの前足膝を折って抑えておく道具だったそうです。(本当か?不明です) 女性は黒ずくめで目だけを出している人がたくさんいます。中には顔をしっかり出してベールをしている人もいるのですが、この違いは宗教的なもので、未婚・既婚とかの違いではないそうです。黒ずくめの女性(私は宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」に出てくる顔なしに格好が似ているので 通称 顔なし と呼んでいましたが、非常に失礼でした)。宮崎監督の顔なしは 「自分を持たず、出会うもの、人によって変化するのがカオナシという存在なのです」とのことです。サウジアラビアの女性は目だけ出していてもすごい一生懸命で、学会発表もするし、親しく質問してきたりもします。目だけの女性というのも非常にミステリックですが、これは宗教上のことをしっかり守られているので、日本人の無宗教者が何も言える立場にはありません。食事もあのベールの下から口に入れるので、大変そうでしたが。
興味深かったのは、出生率が高く子供が多いのと、やはり肥満者が多く脊椎の病気が多い、また交通が激しいくて交通事故が多いので、脳外科医の興味の中心は小児脳外科、脊椎・脊髄外科、外傷、もう一つは留学者が帰ってきて特に頭蓋底が興味を持たれていることです。日本では最も関与する脳外科医が多いのは脳血管障害です。サウジでは脳動脈瘤破裂が少なく、またすでに脳梗塞や脳出血に対する脳神経外科の手術は時代遅れとなった時代から脳外科そのものが始まっているので、血管障害は大きな中心にはならなかったのでしょう。社会の病気の主体や学会が始まった時の医学の常識でかなり注目される専門領域も変わるのだなと思いました。留学ですが、昔は日本に来られる先生が多くいらっしゃいました。でも最近はカナダの脳神経外科学会と提携して、毎年一名をどこかの研修病院に送って脳神経外科の研修を終了(6~7年)させてくるとのことで、一名1年10万ドルを施設に支払っているとのことです。当然そこに選ばれるのはエリートで、今回の学会主催の会長も現在40歳でエドモントで研修して帰国早々大学の脳外科主任になっているとのことです。


 
さて社会に目を向けると、道は車しか走っていません。歩いている人はまずなく、歩道もありません。もちろん自転車運転などありません。車を持っていない人はどうするのでしょうか?地下鉄や鉄道などの公共交通機関もほぼ無いそうです。それでリヤドやジッダなどの大都市では交通渋滞がすごくて、ちょっとした距離の移動で1時間はゆうにかかってしまうとのことでした。交通規制は一方でかなりきびしく道のありとあらゆるところにカメラが備えてあり、速度違反や路線を守っていない車は自動認識されてとてつもない罰金(10Kmの速度違反で数10万円)を取られてしまうことです。
現在サウジはもちろんものすごいオイルマネーで潤っているわけですが、昨今のSDGs、脱炭素の動きから、国として脱石油を目指して、2030年計画として、ITやAI、機械産業などさまざまな石油以外の産業を国家予算で進めているとのことです。そういうわけで、今回行ったGizanなどは、どこも工事中で、大型トラックが出入りしていました。会長はすごく若いので元気で我々国際ゲストを学会の前日にはLajab渓谷の渓流アドベンチャー、、、帰国日には早朝から超高速ボートでのFarasan諸島ツアーを決行してくれました。命からがら、、のツアーでした。渓流では胸まで水に浸かって渓流を渡り、ゴツゴツの岩の中を登って降りたり、、ここで怪我したら、、、日本に帰れないだろうなあと思いつつ、Farasan諸島へのボートではこれで振り落とされたらサメのえさだな、、などと思いつつ、ちょっと命の危険を心配しながらの観光ツアーはほぼ初めてでした。。でもサウジアラビアにも砂漠ではない山や渓谷、海は未開発の素晴らしい資源があることを知りました。今度はもう少し観光地が整備されてから行きたいなと思います。それと私にとって最も衝撃だったのは、、これまで訪ねたイスラム教国のエジプトやトルコと違って、ホテルでも空港でもアルコールは一切禁ということです。ということでドーハへの行き帰りの飛行機を除く丸5日間完全禁酒を否応なく強制されたことです。これがすごいデトックス効果で、なんと異常値を出していたガンマGTPがほぼ正常化しました。食事はラムとチキンの煮込みやご飯が多かったので、本来は赤ワインがあると非常に美味しいと思うのですが、ダイエットコーラやセブンアップでは、、、今一つという感覚です。その為もあるかと思いますが、宴会はヨーロッパと違って、さっさと終わって8時開始でも9時すぎには終わります。欧米では12時過ぎまで飲んで踊っている会合、、、(特にスペイン)が多いのです。また終わった後の集まりもお茶を飲んだり水タバコを吸ったりという、ちょっと日本や欧州では考えられない習慣でした。
サウジアラビアは学会も国もとても若々しくて元気なところです。日本人も飲酒ができないことを除けば、色々貢献できることがたくさんあるように思いました。


 
と今回は雑談の方が主体となってしまいましたが、サウジアラビアレポートでした。
今後の私のブログは少し間が空くことになります。

2024年2月19日月曜日

ウォーキングを楽しむ

 

香川県病院事業管理者

槇野 博史


はじめに

寺岡記念病院では福山・新市・府中地区の高齢者の健康増進のために高齢者健康医学センターを立ち上げ、素戔嗚プロジェクトが始動しています。その牽引役は日本医科大学名誉教授の森田明夫先生ですが、私は本センターの顧問を拝命しております。森田センター長より、素戔嗚ブログに投稿するよう依頼があり、高齢者の私が実践しているウォーキングの一端を紹介したいと思います。

 

スローライフがやっと可能に

 これまでは、「Time is Job.」 で、どこに行くにも最速に移動して仕事優先の生活をしていました。昨年3月に大学を退任してスローライフを楽しむ事ができるようになりました。自宅から職場までの歩行に加えて、昼休みにはウォーキングの時間が確保できるようになり、毎日1万歩が可能になりました。周囲を観察しながら歩いてみると、車で走っていた時には気づかなかった、新たな発見があり、楽しくなってきます。でかけた先でもウォーキングを楽しんでいますが、昨年最も印象的だった場所は、江戸城址の皇居内でした。

 

皇居一般参観

私は高校時代にアメリカン・フィールド・サービス(AFS)で1年間ペンシルベニア州に留学をしました。留学の最後に近隣のAFS生が集まって1週間のバス旅行がありました。その際に知り合ったベルギーからの留学生は、大の日本ファンで、9月から日本各地を旅行すると連絡がありました。

 昨年1月に講書始の儀を陪聴した際に、皇居前に並んでいた人たちの事を思い出し、皇居参観を思いつきました。

 

桔梗門から参観 

9時に整理券を貰い10時に集合して、桔梗門から入場しました(写真1)。桔梗門は慶長19年(1614年)に建てられましたが、その名前は江戸城を築城した太田道灌の家紋の桔梗紋に由来しているそうです。

窓明館で皇居の歴史や文化が紹介され、注意事項を含めたオリエンテーションがありました。日本語、英語、フランス語のガイドさんによるグループに分かれて出発しました。英語グループでゆっくり写真を撮っていたら、いつの間にか三番目のフランス語のグループに吸収されていました。      

 

(写真1. 桔梗門)


富士見櫓、宮殿東庭、正門鉄橋へと参観

窓明館を出て暫く行くと右手に富士見櫓が見えてきました。櫓の高さは約16メートルあります。どこからみても同じような形に見えることから「八方正面の櫓」とも呼ばれています。明暦3年(1657)の大火で天守閣が焼失した後は、天守閣の代わりとされた重要な建物です。将軍が富士山はもとより、秩父連山や筑波山、両国の花火を眺めたと言われています。

もう暫く行くと1月に参入した坂下門を内側から見ました。宮殿東庭では、長和殿中央のバルコニーの説明がありました。天皇誕生日や一般参賀の時に皇族方がお立ちになられる所です。

さらに進んで折り返し地点の正門鉄橋(二重橋)にやって来ました。実は私は、目の前の正門石橋(眼鏡橋)を二重橋と誤認していました。これまでは皇居前広場から正門石橋の向こうに正門鉄橋を眺めていましたが、今日は正門鉄橋から正門石橋の向こうに観光客が見え、いつもと逆で不思議な気分でした(写真2)。

(写真2.二重橋から、眼鏡橋と皇居広場の眺望)


 折り返して宮殿東庭、1月に宮殿に参入した宮殿北車寄前を通って窓明館に戻りました。幸い小雨も途中から止み、友人には江戸城があった日本の歴史を体験してもらえました。

「都会の高層建築の谷間に濠と石垣に囲まれた日本の伝統的なお城がある。喧騒を離れ、松の緑に囲まれ、ゆったりとしたウォーキングによりモダンと伝統の美の調和した現在の日本を体験できてわくわくした。」と友人が感想をくれました。坂道もある2km余りを1時間かけた江戸城址再発見のウォーキングでした。

2024年2月5日月曜日

Blue zoneのこと:環境・境遇と健康長寿

高齢者健康医学センター 森田明夫


これまでの何度か触れましたが、今回はBlue zoneについてまとめます。
Blue zoneという言葉は、健康長寿をテーマに扱う人間にとっては知らないと恥ずかしい言葉ですが、実際に私がこのことを知ったのは2023年11月に開催された日本脳神経外科認知症学会でのことでした。会長の石内琉球大学脳神経外科教授の取り計らいで、当院の会長を含む3名の80歳以上で現役で活躍中の認知症や地域医療に尽くしておられる先生方の教育講演が組まれていました。当院の寺岡暉会長は本プロジェクトのことも含めて先生がこれまで努力されてきた最良の地域を包括してケアする医療の提供のあり方についてお考えと実績をまとめられた。またもう一名尊敬する札幌医科大学名誉教授の端和夫先生(未破裂脳動脈瘤の調査で指導していただきました)は現在興味を持たれているいかに認知症を予防するかという科学的文献のレビューを徹底的にされた。驚くべき汲めども尽きぬ探究心です。そして最後に琉球大学の外科教授であった鈴木信先生が登壇された。先生のお話の概要は、沖縄は先の戦争で47万人の人口のうち1/4超に当たる12万人が民間人も含めて戦死したことに触れ、その後の復興のこと。そして昭和30年代には、沖縄では100歳以上の方が100名以上いたこと。そしてそのほとんどが認知症などを患っていなかったこと。そのような調査で沖縄が世界一の長寿地域であることが認められたとのことだった。Blue zoneとして認定され鈴木先生は沖縄Blue zoneの代表を務められている。しかし残念なことにその後沖縄の平均寿命は低下し、長寿者の中にも認知症の方が目立つようになったとのことである。その原因はとかく食の欧米化が原因とされているが、それだけではなく、生きがいの欠如なども原因であろうと話されていた(と思う)。沖縄には古くから模合という風習があり、月に一度は古くからの仲間が寄り集まって、飲み食い談笑する。その場でお金を積み立てて、次の会合や旅行のための資金とするというものだ。その模合があるからこそ沖縄の人たちは、近所や友と日常的に付き合い、生きがいを持って生きていられる。都会的となった沖縄ではそういう習慣が薄れてしまっているのかも知れません。


 
さて話をBlue zoneに戻します。Blue zoneという言葉はもともとイタリア サルディーニャ島に長寿の人が多いことから地元の医師が言い出した言葉だそうです。その後National Geographic誌とBlue zoneを広めたDan Buettner氏が世界の長寿地域を取材し、5か所の世界のBlue zoneを認定し、その地域に住む人たちの習慣から健康長寿のためのギミック(こつ)を得ようとしたことから始まる。こちらに彼のTEDの番組(英語/AIによる同時通訳字幕がつきます{右下の矢印の隣のボックス})があります。長寿や生命・健康は遺伝子からくる要素は10%に過ぎず、90%は生活習慣からくることを最初に述べ、様々な長寿をもたらす習慣から学べることをよくまとめています。彼が中心となった著者BLUE ZONESでもかなり詳しく5つのBlue zoneのことを記載し、最後に9つの共通事項をまとめています。
ただ課題は、そのような習慣がわかったとしても、なかなか自分の習慣としてつけることは難しいことを強調しています。運動習慣やダイエットなども同様で長続きしないのが常です。ではどうすれば良いのか?自ずと生活の中でそうならなければならないようにする工夫が大事とのことです。例えば便利なものを避ける。歩ける距離は歩く。階段を使う。食事は小皿に分けて食べ切る(それ以上は食べない)。などが大事とのことです。
また「類は友を呼ぶ。」友人が肥満であれば、本人も肥満となる。大酒を飲めばそうなる。一方で運動や散歩や健康的な食事が好きな友が周りにいれば、自然と健康になるというのです。沖縄では先の模合でいつも6人以上の子供の頃からの友達と90歳過ぎまで話あい助け合って生きています。親しい友と言える人は米国では30年前は3人、今は平均1.5人となっているそうです。

まず5か所のBlue zoneですが、
1)    イタリア サルディーニャ島・バルバギア山岳地帯
2)    沖縄 本島北部
3)    米国 カリフォルニア州 ローマリンダ在住アドベンティスト
4)    コスタリカ ニコヤ半島
5)    ギリシャ イカリヤ島
となります。

 
どの地域にも共通なのは、豊かでリッチな生活をしている地域ではなく歴史的に迫害されたりして厳しい環境で暮らしていただろうなあという地域です。その地域で慎ましく、日頃険しい地域を耕したり羊などを飼ったりしてくらし、家族や仲間を大事にして生きてきた土地となります。すなわち環境や境遇が自ずと長寿となる条件を作っていったと考えて良いかと思います。
ギリシャのイカリア島といえば地中海に浮かぶ楽園のようなリゾート島かと思われるかも知れませんが、トルコとギリシャの間の島で、常に戦争に巻き込まれていました。島周辺は風が強く、かつ港も整備されておらず、平地がありません。15Km隣のサモス島は地中海リゾートとされていますが、本島は歴史的に非常に貧しい島でした。
たまたま今朝(2/4)のNHKマイあさラジオで沖縄の北中城村が日本一長寿の村、そして住みたい村となっていることが紹介されました。以前も紹介しましたがそこにあるカナという料理店で出されるイラブー汁(海蛇汁)は本当に長寿になりそうなくらい美味しいです。87歳のおばあが作ってくれます。実は私はそれほど北中城村そのものを見て回ってはいないのです、次回チャンスがあればぜひ周りの散策もしたいと思います。
 

ではどの地域でも共通する9つのルールとはなんでしょうか?
ルール1:適度な運動を続ける
運動を習慣化するには、身の回り・日常生活をできるだけ不便にする。リモコンは使わずカウチポテトにならない。毎日活動的に、よく歩く。特に誰か仲間と一緒に散歩する。草花を植えたり、ヨガに通ったり。
ルール2:腹八分で摂取カロリーを抑える
1日1900~2000カロリーを目安に。腹八分目を習慣化するには、さらに取り分けたら料理は片づけてしまう。(おかわりしない)野菜などで食事の量を増す。買い物は小さい方を選ぶ。小さい器を使う。毎日体重計に乗り、ゆっくり食べる。(箸を必ず一口ごとに置いて、50噛みする。)食事は早い時間にテーブルに座ってとり、食事に専念してしっかり味わってゆっくり食べる。
ルール3:植物性食品を食べる
果物や野菜をキッチンの前面・テーブル上におく。一日4~6種類以上の野菜や果物を食べる。ナッツをよく食べる(ただしカロリー高いので注意)。肉類を減らす。
ルール4:適度に赤ワインを飲む
サルディーニャではカンノナウという品種(フランスではグルナッシュ)の赤ワインを1日2杯くらい飲む。ポリフェノールが普通の赤ワインの3倍くらい含まれているとのこと。大酒は禁。
ルール5:はっきりした目的意識をもつ
日本や沖縄でいう生きがい。朝起きる時今日は何をするという目的があることが重要。自分の目標宣言を書いたりいったりするのも良いらしい。
ルール6:人生をスローダウンする
ゆったりした時間をとる。1日に20~30分瞑想する時間をとる。NHK土日のマイあさラジオのアナウンサー渡辺ひとみさんは「森のような人間でありたい」といってました。また片桐はいりさんは土日のサタデーエッセイか何かで、慌てない。電車や横断歩道で間に合うように走ったりしない。といってました。静かな落ち着いた心を持ち日常のストレスを減らす工夫が込められていると思います。朝はやく起きたり、また待ち合わせ場所には早めにいくのが日ごろ慌てないコツですし、余った時間に瞑想なりいろいろな考えを巡らせることができます。
ルール7:信仰心を持つ
日本人にはなかなか難しいですが、週に2~3日神社・寺院とか教会に足を運んで、お祈りまたは静かに考える時間を20分くらいもつのも良いかと思います。私は海外や地方に行くと必ず地元の教会や寺院に入って観光客のように歩き回らないで、祈りの椅子や床に座ったりして時間を取るようにしています。
ルール8:家族を最優先する
日本ではみなさん忙しいし我が家でもなかなか家族は集まれませんが、月に1回くらいはみんなで会食して、近況を聞くようにしています。仏事やしきたりを大事にすることも大事なのかなと思います。
ルール9:人とつながる
健康を保つ上でもFrailなどの病態に陥らないためにも、これが最も重要なファクターだと言われています。
「肥満の友人を持つと肥満になる可能性が6割高い。(NEJM)」という研究成果がFramingham研究の一環から明らかになっています。価値観を共有できる友や仲間と定期的に会う事が大事です。できれば一日30分一緒に過ごすこと。今はremoteでFace timeやzoomで話をするのも一手かも知れませんね。

 
以上のようにいろいろ参考になる生き方がまとめられていますが、どれもすぐに全てやろうとしてもうまくいきません。まずは1つ2つから始めて、健康でいることを楽しく思えるようになれば良いと思います。なお長寿の薬とか健康になる薬とか簡単なものはありません。いろいろキャッチーな宣伝がありますが、無駄です!痩せ薬として糖尿病の薬が米国などでは認可されていますが、確かに一時的には体重が減るかも知れませんが、日常生活を改善しないで健康はありません。薬で作った体調は遺伝子組み換えの穀物みたいなものです。

雑談:
2024年1月はいろいろ法事とか、実家の整理とかで忙殺されました。でも1月13日には本センターの顧問の宮下充正先生に公開講座をしていただきました。ますますお元気で活力のあるお話をされ、皆様元気をいただいたと思います。90歳近くになっても1時間半のとてもわかりやすくvividな講演をこなせる体力・知力・胆力には感嘆します。自分もそうあれるようしっかり運動して認知力が落ちないようにしたいと思います。会に先駆けて今仙電機が開発した歩行チェックシステムで講演を聞きに来られた方たちの歩行診断を行いました。みなさん自分の歩き方を動画や数値で見せられて改善の意欲を持たれていたようです。なるべく歩幅を大きく手を振って早歩きをすると良い点数が出ます。

 
最後に食事の方は、相変わらず美味しい福山のお魚料理と自前では中林さんの朝締め鳥のソテーとか、手羽のポン酢煮などを作って食べています。ちょっとストレスかアルコール量が多くて肝臓が心配になってきていますので、2月は少し節制したいと思います。写真は学会で行った札幌での昼食の功罪です。どうしてもやめられないすみれの味噌ラーメンといただきます(昼からやっているジンギスカン屋さん)のジンギスカンの紹介です。どちらも非常に美味しいです。
皆様もう暦では春となります。能登は復興途上ですし世界では紛争が相次ぎますが、健康な社会と体を目指して何か一つでもできることから始めましょう。

 

2024年1月9日火曜日

新年を迎えて思うこと

高齢者健康医学センター 森田明夫

新年になって数日のうちに、とてつもないニュースがいくつか飛び込んできました。北陸で被災された方々には謹んでお見舞いを申し上げます。広島からも可能な限りの支援をお届けしたいと思います。また一瞬の間違いで多数の犠牲者を出したであろう事故では、乗務員の素晴らしい機転・活躍と乗客の自制心で民間機側には一人も犠牲者を出さないですみました。日頃の鍛錬が万が一の危機にも非常に重要なことがわかります。

能登は昨年夏に訪れたばかりでした。輪島門前という輪島の内陸にあるところで頑張っているシェフを訪ねてとても良くしていただき、また行きたいと思っていたのですが、素晴らしい図書棚や由緒ある建物はどうなってしまっているのだろうかと思います。無事であることを祈っています。

能登は素晴らしい里山と棚田や塩田があり、珠洲ではここでしか作ることができない切り出しや練り珪藻土の七輪が作られています。机の上や気軽に炭火焼きをするにはこの道具は不可欠です。一度使ってみればわかりますが、この七輪は枠が厚くてもとても軽くて、熱は全く外には伝達しません。その他、有名な輪島塗、朝市、そしてキリコによる祭りなど鄙びた中にも素晴らしい文化が能登・石川にはあります。ぜひ皆さんもいつか街や村、道路が回復したら訪ねてみてください。

能登里山街道という高速道路は途中に七尾湾を見渡す素敵な展望台があったり、素敵な田園風景が続きます。また北岸の白米千枚田ではすごく美味しい塩にぎりがあります(残念ながら私たちが行った時は45分待ちで食べられませんでしたが)。海にそのまま突き進むような千枚田は日本随一です。さらに能登半島の先には日本一の塩を作る古くからの揚浜式塩田があります。時国家という平家の落武者が先祖とされる豪農の家もありますが、どうなっているでしょう?

20238月の能登

今は、里山街道は寸断され、また能登半島の塩田や千枚田のあたりの集落は孤立したままだと言います。すでに海上自衛隊の揚陸艇やPeace Windsの支援船などが活躍しているようですが、なぜもうちょっとしっかりした支援船や病院船を早く作らないのかなと思います。ちなみに政府では2021618日に病院船推進法が公布され、3年のうちには実施しないといけないことになっているのですが、忘れ去られているのでしょうか?道路が寸断されているのであれば、やはり海路や空路での運搬の手段をもう少ししっかりしたものを作って欲しいと思います。確かに津波や海底の隆起などで一般の船では接岸は難しいのかもしれませんが、熟練の漁師が扱う小型船や揚陸艇などを用いて安全な沖合に停船した大型船から大量の物資や患者の運搬などができるのではないかと素人的には思います。病院船は確かに災害のない時には維持コストが問題になりますが、通常は健診機能付き豪華クルーズ船にするなど、さまざまな工夫で効率を挙げられるのではないかと思います。沼隈病院の檜谷先生はぜひ常石の造船所で病院船を作りたいとおっしゃっておりました。その造船所ではGUNTUという超豪華な瀬戸内海クルーズ船を運行しています。ぜひ病院船にも応用できるようなクルーズ船を作って、いざという時には被災地の皆さんに温かい部屋や清潔なトイレ、お風呂を提供してあげられるだけでも素晴らしいと思います。また神石高原町を本部とするPeace Winds Japanの先生たちの活動がテレビでも放映されていました。昨年7月には3500トン級の災害医療支援船を航行させています。すでに船舶豊島丸を派遣して物資の運搬をしているとのことです。広島県の災害医療への貢献をさらに増強できたら素晴らしいですね。

病院船構想


しかし一方で、よく宣伝にも使われているドローンによる運搬は今どのレベルになっているのでしょうか?武田薬品の宣伝でドローンによって離島に薬を運ぶなどというPRビデオが流されています。また大阪万博では空飛ぶ車が実機配備されるとのこと。なぜこのようないざという時に有用な技術が使えないのでしょうか?ドローンはまだ爆弾を落とすくらいしかできないのでしょうか?コンサートや開会式では素晴らしいコンピューター操作でドローンによる模様や照明が多く使われています。確かに軍事転用できる技術なので、開発に躍起になると誤解を受けるかもしれませんが、このような災害の時にこそ使える実機をトヨタでもマツダでも日産でも、JET機を得意とする本田でも良いので、ぜひ協力して軽トラック一台分くらいの荷物を運べるようなドローンや空飛ぶ自動車を作って欲しいと思います。それこそ災害の多い日本が今後牽引してゆくべき新技術だと思います。このようなfrustrationは以前未だに解決しない福島原発のデブリの処理を英国製のロボットが担当するというニュースを3年程前に聞いた時に耳を疑いました(日本医科大学2021年業績集巻頭言)。なぜロボット先進国の日本でのことなのに欧米の技術を入れないといないのでしょうか?人は疲れますし、危険を承知で危険な現場に向かわせることはできません。RobotAIには疲れという言葉がないのがその最も大きな特徴です。政治家たちは自分たちでへそくりを貯めないでぜひ大型予算でAIや自動技術を備えたロボットの開発を進めて欲しいと思います。日本初の災害対応機器の開発が進むことを切に願います。

次に2日に起こった不思議な飛行機事故。なぜ何度も何度も安全確認や復唱する習慣のある航空業界でこんな事故が起こるのか?発生原因の詳細はまだ不明とのことですが、石川の支援に向かっていた飛行機に乗り合わせ犠牲になられた海保の乗組員の方々には大変お気の毒でした。ちょうど発生時にテレビを見ていましたが、NHKの画面に突然燃え始めている飛行機が写り、アナウンサーも何の映像かわからず、1時間くらいして徐々に詳細が明らかになってきました。何度も何度もNHKの定置カメラに映った画像が繰り返し流され、着陸する飛行機に何かがぶつかって火の手が上がる様が直後に放映されていました。その間にも火はだんだんに室内や機体を包んでゆき、あの中には乗客はいないのか?ものすごく不安になりました。脱出用のスライドが降りていましたが、本当にいつも飛行機の離陸前に流されるビデオのように皆さん荷物を持って出なかったのかなど、自分だったらどうしたろうなどと考えていたら、乗務員が素晴らしい連携と判断、指示をして、乗客が一人も(?)荷物を持って出ないで、一人の犠牲者も出さなかったという。つくづく奇跡のようなことを目の当たりにしたなと思いました。例えば360人の乗客のうち一人でも命より大事だとか主張して荷物持って出て、その荷物の金具でスライドは破損して数少なく使えた3つのうちの一つのスライドが壊れたら、その人のために何人かは犠牲になったかもしれません。今後荷物や持ち物の補償はどうするんだろうと思いますが、本当に乗組員をはじめ、素晴らしく民度の高い行動をした乗客の皆さんを誇りに思います。国際的にも奇跡として称賛されていますね。このようなニュースを聞くと、いかに徹底した確認を行っていてもちょっとした油断やミスから大きな事故が起こりうることがわかりますし、またその対応には日頃の徹底したシミュレーションと訓練が威力を発揮することをまざまざと見せつけられ、学ばせていただきました。

また改めて自分勝手な行動や怒鳴ったり喚いたりするのは、いざという時に浅ましい人間性を示すことになるのだと思います。日頃から、決まりや規則をしっかり守って落ち着いた行動をしたいと思いました。

雑談:

皆さんはお正月をどうお過ごしになられましたでしょうか?私は今回年始のお祝いはないので、瀬戸内で年末を過ごして京都の錦市場に寄って正月に東京の自宅に帰りました。瀬戸内の日の出、京都の日没は素敵でした。食事はもちろん美味しいものだらけで、どうにもリバウンドの流れは止まりそうもありません。なんとか今年は意思を固くして、数kg体重を減らす努力をしないと肝臓を脂肪漬けにしてしまいそうです。

年末のラジオで斎藤幸平先生から「人新世」の話を伺いました。人新世とはこのままでは人が地球環境を壊して大量絶滅が来るという人による地上への痕跡が多く残って行くだろうという時代を示します(デジタル朝日記事)。特にグレートアクセラレーションといって1950年以降の世界では人間による活動が特に顕著になっていて、ものすごい勢いで世界総人口、GDP、都市人口、一次エネルギー使用量、化学肥料の使用量、ダム建設、水使用量、製紙、遠隔通信、二酸化酸素産出量、大気中のメタン濃度、漁獲量、エビの養殖など、さまざまな人を中心とする活動や結果の指標が驚くくらい並行して急激に増加しているのです。齋藤先生が推奨されていた本、田村典江さん達が書かれた「人新世の脱<健康>」という本を読ませていただきました。人の健康は環境と食によってなり立っていて、その環境は地球の健康が人の活動によって劣化しているため、危機に瀕しているというのです。健康とは単に医療や保健をよくすれば良いわけではなく、人間の生き方、地球や環境のあり方に密に連携していることが詳しく書かれています。人の体のことだけではなく、いろいろな面を考えないといけません。WHOでは次の様に定義されています「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)。私を含め多くの医師は単に医療の面からのみ健康を考えていることが多いのですが、人間の生き方の歴史的変遷によって大きく人の寿命や健康度そして環境が変化し、特に今は精神面での健康も含めて、社会の中での人の生きがいがどうなのかなども大きく影響することを知りました。また人の歴史の中で、狩猟や採取を主な糧としていた少人数グループの時代から、農業を営み比較的大きな集団で生きるようになった時代、そして産業革命や富の集中によって都市型の社会と農村に分かれて住むことが多くなった時代、そして現在のグローバルな時代、それぞれに起こる病気、感染症、健康に関わる要素が大きく人の生き方で変わってきているのです。例えば、家畜や鳥と一緒に住む環境になって初めて天然痘やインフルエンザが始まったと言われます。多数の人口が寄り集まって暮らすために疫病が流行する。また共通の水路や汚染からペストなどが流行したと言われます。そして現在は高カロリー、多脂質な食事で、出来合いのコンビニ食などのためビタミンや金属などの必須栄養素が足りていない、多栄養と栄養失調が同居した状況になっているとのことです。当然車社会となり、運動不足は社会の多くの疾病の元となっていると言っても過言でもありません。さらに今後少子化が進み、かつ現在の破局的な温暖化が進めば、人口は減少し、かつ砂漠化した土地に居住するという時代が近い将来来るかもしれません。

一人一人の医療や健康と同時に、私たちも社会や地球の健康をどのように保って行くかなども含めて大きな視点で考えていかないといけないなと思うこのごろです。