2023年12月5日火曜日

母のこと

 

高齢者健康医学センター 森田明夫

 

ちょっと暗い話です。私ごとで申し訳ありません。

つい先日母を心筋梗塞で失いました。ちょっと世の中が変わってしまった気がします。何のために努力してきたのか?自分を作った根元が失われてしまった気がします。喪失感とはこういうことでしょうか?父の時も悲しかったと思いますが、今ほどの脱力感はなかったように思います。そう思うと父親は可哀想ですね。

私が小学校の頃(6年生の頃だけです)、母に連れられ、何もわからないまま四谷大塚という進学教室に毎週日曜日に通っていました。背の小さいやや太った母だったので、友達に見られるのが嫌で、友達と会うと「ちょっと離れて歩いて」なんて言ってました。でも自分は一人では家に帰れないので母が外に待ってくれているのを見るととても心が落ち着いたのを覚えています。塾の授業時間中どこでどうやって時間を潰していてくれたのか?聞くこともなかった自分勝手なひどい自分でした。授業の後は私のリクエストで、大宮駅でうなぎをご馳走になって岩槻に帰るという日々で、いつも「明夫はうなぎが好きだね~~~」というのが最近になっても口癖でした。そんな自分でも志望校に入れると自分のことのように喜んでくれ、その後も中学、高校、大学とそして留学、医師になって米国に留学して、大学教授を経て広島に来てという私の人生をいつも傍で自分のことのように応援してくれていました。それに対して私は何をしていたんでしょう?

母は料理が得意で特に煮込みハンバーグは、あの頃市販のデミグラスソースなんてなかったのにとても美味しかったのを覚えています。胡麻汁で食べる冷麦も美味しかった。子供の頃の私は好きではなかったのですが、母は自分が好きで塩鮭の酒粕煮をよく作っていました。今となっては私も好きだろうなあと思いますが、大人になってからは食べさせてもらったことがありませんのでレシピがわかりません。味覚の記憶はよく残りますね。

母はこれまで何度かリンパ腫とか乳がんとか大病をしていたのですが、昨年末だったか妹を突然失って、親兄弟姉妹全ていなくなってしまって、話相手がいなくなってしまったからか、ちょっと今年に入ってどうも部屋に引きこもりっぱなしになってしまって、話が繰り返し、そして言っていることがおかしくなってしまいました。鎖骨の上にまたしこりを発見して、私の前職の病院に入院してもらい、リンパ腫の再発であることがわかりました。幸い非常に良い手当を受けて、看護師さんたちと毎日話をしたためか認知の状況も非常に良くなったのですが、あれほど料理と食事が好きだった母がほとんど物を食べられなくなってしまっていました。多分抗がん剤の影響で胃や腸があれてしまっていたのでしょう。

長期の入院のため一人で歩けなくなり、身の回りのことができなくなってしまっていたので介護付きの老人施設に入ってもらい、身の回りの世話をしてもらっていたのですが、やはり口からの食事ができないし、介護施設では点滴が難しいということで、どうなることかと思いましたが、なんと復活して食事もエビフライ2本やトンカツを3枚も食べられるようになっていました。でも昨日(11/27)の朝胸部苦悶を訴えて救急で循環器専門の病院に運ばれ加療を受けましたが急性心筋梗塞で心停止をきたして、回復できませんでした。私は福山にいたので、大急ぎで帰京しましたが、血圧も上がらず、最後を看取るのみでした。

色々なことが思い出されます。子供の頃のこと。上海の学会に連れて行ったこと。米国の留学先、ミネソタやワシントンDCにきてもらったこと。私の恩師のSekhar先生の半分の背丈もないし、英語も全く喋れないのに先生の前でも堂々としていて、海外でも全く動じることがありませんでした。若い頃(私が小学校低学年の頃)にはちょっとヒステリー気質ですぐ怒って実家の古河に帰省してしまっていましたが、懐かしい思い出です。数日すると父が実家に迎えに行って連れて帰ってくるというのは、私が覚えているだけでも10回くらいはあったように思います。よくもまあ母の実家は帰省を許していたものです。でも私が高学年になった頃には、「自分の行動を遠くからもう一人の自分が見ている。」というようなことを言い出して、怒りだか熱くなるのを抑制できるようになったようです。本当にどこの舞台に出しても良くもまあこんなこと喋れるな、、ということを喋ったりしていました。でも後で私には色々電話で愚痴るのも忘れない。また一際気位とプライドが高くて「バカにされた!」と思うと、後ですごい剣幕で色々ぐちぐちと文句を私に向かって(相手ではなく)いう母でした。「そこが良くないよ!そんなこと気にしないでも。」と言っても、こう言う自分もそのような気があるな〜と思います。私はあまり愚痴ってはいないですが、妻に聞くとそうでもないかも。

まあ遠くから自分を見ているというのは、自分もそのような技を少しだけ受け継いでいるようにも思いますが、自分の顔をみると母の面影がかなり入っているので、母が見ているのか、自分が見ているのかわからなくなることもあります。そんなことを言うとマザコンかと思われますが、そうでもありません。

親の性格や顔貌、体型とか、考え方とか、どうしても息子は母親の影響を受けやすいし、娘は父親の影響を受けやすいというのが世の常です。遺伝子の量からそれは決まっているのです。男の子は母親からの遺伝子の量が5%位多いのです。女子は半々です。(ので女子は父親が強いとは言い切れないのですが、息子に関してはdefinitelyです)

そういうわけで、自分の最も近い肉親を失うと、自分で言うのも変ですが、愛情というのか、気持ちをずっと受けてきたので、これがなくなると、果て私は実際何を目的に生きてきたのかと考えてしまいます。母を喜ばせるために努力してきたのかな?など。

まだまだ時間があると思っていたのに、急にいなくなられるので、91歳とは言っても、なんとも悲しみと喪失感が絶えません。これまで受けた恩や愛情に比べて、私ができたことが少なすぎて、本当に自分が情けなくて、崩れ落ちそうに感じます。

ちょっとボケてしまったかなと思った時は、もうこれまでかなんて思ったし、これまでも大病した時には、この先持つかななんて思っていたのに、助かったり良くなったりすると何もしなかったのです。

「孝行したい時に親はなし」

とはよく言ったもので、親への愛情の恩返しは、できる時に思いっきりしておくべきだったな。と今になって思う自分です。

 

ですので、これを読む機会のあった皆さんにはぜひ親御さんがいらっしゃれば、孝行を一つ。または心がけ・声がけを一つ。日に一回は無理でも週1では電話か会いに行ってあげましょう。と言いたいです。

 

また毎日話をする相手がいないと認知機能が衰えますので、無理矢理にでもどなたかとお話しをしてもらうことです。

 

今回はあまり高齢者健康医学には関係のない話ですが、親子の関係って切れるものでもなし、とても大切な生活の単位です。親子関係が全て正常なら、多分地域も社会も国も正常になるのではないかと思います。

 

つまらない話でした。年末に暗い話で申し訳ありません。そう言うわけで今年は年末年始のご挨拶を控えさせていただきます。

 

母の写真

Amorランキン1位2位のうなぎ

雑談:

最近は事務局長を務める海外の学会の準備とかちょっと忙しくて料理に打ち込んではいないのですが、今回のことで突然行けなくなったのと、今日は妻が大学時代の友達と女子会とのことで、私は自宅で寡状態。前から作りたかったガオマンガイ(シンガポール海南チキンライス)を炊飯器で作ってみました。福山のアパートには炊飯器がないので、これができないのです。ご飯なので、リバウンドまっしぐらの自分には痛い一食ですが、まあ明日少し挽回できれば。

ご飯1合半、にんにくかけ、しょうがかけ、お酒、みりん大さじ1、鶏ガラスープのもと小さじ2、醤油小さじ1.5、ニョクマム(今日は魚醤で代用)小さじ0.5 で分量よりやや少なめの水と鳥もも肉1枚をドカンと上に乗っけて炊飯します。

ソースが決めて。私は、唐辛子酢(酢に唐辛子)、AKIOの厚揚げソース(醤油、オイスターソース、中華黒酢、韓国黒ごま油)、辛醬(茅の家)、タイレッドチリソース、と山盛りのパクチーです。

今日は魚醤なのでやや和風になりましたが、ニョクマムならタイ風になること請け合いです。

その他は前回も出しましたが、圧力鍋で作るシチューに凝っています。ハート中山牧場の肉ぞろえはすごいですね。駒込にも少し高めではありますが、玉子屋という肉屋さんがあります。以前テレビで飯尾さんがそこのローストビーフを紹介していました。そこで購入して作ったテールシチュー 超絶品でした。


また11月の初旬に那覇で脳神経外科認知症学会という会合があり出席し、本センターの取り組みの紹介をしてきました。その会で当施設の寺岡暉会長を含め3名の現役で活躍されている80代後半の先生方3名の講演がありました。中に鈴木信先生(90)という消化器外科医で現在は沖縄ブルーゾーン(たくさんの健康な100歳が多く暮らしているゾーンのこと 世界に5か所あるそうです)の会頭をしている先生の講演がありました。要旨は先の大戦で沖縄では47万人の人口の1/4が亡くなったそうですが、復興を挟み昭和30年代には100歳以上が数百人位おられたそうです。その中で認知症の方はとても少なかったのですが、現在はまだ100名以上いる100歳以上のご老人のうちほとんどが認知症になってしまったそうです。みなさん食事が欧米化したためと思われがちですが、それだけではない。とのことです。“生きがい”という英語にはない言葉がKeyだそうです。また沖縄には「模合(もあい)」という文化があり、気の合う仲間で毎月集まり飲み会を行い、ついでに資金を積み立て、旅行や事業に役立てる集まっていたとのこと。こういう機会で色々な人たちと楽しい話をして、歌って、踊ってなどをしていたのでしょう。

フレイル・認知症予防にはNEAT(Non exercises activity thermogenesis: 運動ではない熱量発生)が重要とのこと。これを日々実践していたのが、沖縄でも減ったのでしょうか?


沖縄では沖縄料理 特にカナという中城にあるイラブー汁料理のお店が私の世界料理番付(Amor’s グルナビ4.99)で最高なのです。これまでに3回訪問しているのですが、前回は2016年の訪問でその時は料理担当のおばあがやや認知がかかってきているような風でしたので、今回は行けないか?と思っていたらなんと復活して元気に料理をしているというのです。あの頃はご主人が大病をしてそれこそ話相手がいなかったようです。今回も元気に美味しい料理を出してくれ、ついでにジューシー(沖縄風の昆布炊き込みご飯)を翌朝のお弁当にと持たせてくれました(泣)。すごーーく美味しかったです。


また沖縄は沖縄そばも美味しいですね。今回は特に名護にある古民家を改築した大家という沖縄そば屋さんでの軟骨そば(ソーキの軟骨部分・骨残すことなく全て食べられます)が最高でした。東大の先輩で本部で病院を開設していた上田先生(寺岡に40年前に在籍の頃お世話になった先生です)が10数年前に連れて行った下さった今帰仁城も訪れることができました。世界遺産に認定されているので綺麗に整備され古城という以前の鄙びた雰囲気は無くなってしまっていましたが、琉球の長い歴史を感じられる場所です。




さて今月は特に教室やコースは計画していませんが、Local commonsに音楽教室や筋トレ体操教室を開いてくれるようにお願いしています。外来の終わった後に歌を歌えばオーラルフレイル予防になりますし、筋トレと一緒にしたらすごい肉体―オーラルフレイル予防掴み取りです。来月には寺岡会長の同級生の本センター顧問の宮下充正先生の講演会がビッグローズで、2月には待ちに待った谷本道哉先生(テレビ筋肉体操の先生、順天堂大学の准教授です)の筋トレセミナーがエフピコアリーナであります。乞うご期待!


2023年11月2日木曜日

続・岸田君に望むこと:教育と医療の大切さ

 センター長・脳神経外科顧問 森田明夫

また不遜な文章です。私自身政治が好きではなく(むしろ大嫌いで、学生時代はM青とかK○とかの立て看板がたくさん学内に立ててその傍で叫んでいる人(学生)たちがたくさんいたのですが、辟易していました。(国内の最も入学しにくい大学に入っている社会的に恵まれた環境の者が、社会の不合理を訴えてどうなるの?」という感想でした。)特にこれといった政治思想を持っている訳ではないことをまず先にお断りしておきます。
私の以前(日本医科大学脳神経外科部長の頃)のブログ(こちら)を読まれた方はご存知と思いますが、私は高校時代、現在日本の内閣総理大臣を務める岸田文雄さんと同級生でした。現在内閣支持率の低下で30%とか20%台とか騒がれていますが、大変立派に重責を背負われていると思います。
少子化問題や中国・北朝鮮・ウクライナ・中東などの外憂、円安、デジタル化など、解決のないことに大変苦慮されている姿が「大変だな~~」と本当に思っています。首相としてこれほど困難なことに立ち向かわれているのは、戦時中を除いてなかなかないのではと思います。
但し、経済対策軍事(防衛)を最も重要な課題として取り上げて対応しているのには少し疑問を感じます。どちらも非常に大事なのはわかるのですが、今の日本に最も求められているのはそれでしょうか?
 



話は少し変わります。数日前の日本経済新聞朝刊の2面に我ら二人の出身校の開成学園中学・高等学校の校長の野水先生がインタビューを受けていた(記事はこちら)。現在日本の大学入試ランキングは東大の入学数や医学部の入学数で決められることも多いが、開成のトップ10の生徒たちは東大ではなく海外の一流校(ハーバードやケンブリッジ、オックスフォードその他)を目指すようになってきているというのだ。英語の教育を徹底的に改革して、このような風潮になってきている。東大一辺倒な傾向より、広く視野を持つ人間を育てたいという趣旨であったと思う。日本の大学のレベル低下を危惧されていました。
一方でJR東海の新幹線の車内誌であるWedgeという雑誌に「日本の教育が危ない」という記事が時を同じくして掲載されていました(こちら)。あまりWedgeには信頼を置いていない私(以前みずほ銀行が潰れそうという記事がこの雑誌にあり、株を全部売ったところその後回復して、値上がりしてしまった経緯によります!大損しました。)ですが、今回は持ち帰って読みました。


詰め込み教育による「正解主義」という言葉がありました。現在の社会は先の岸田総理の課題ではないですが、正解やすぐにわかる解決策がない事由が多いこと。そのようなものを考えに考え抜いて、正解ではないにしても解決・改善できるような力・糸口を見つけられるような才能を日本の教育はつけていない。なるべく早く「答え」に到達するのが是とする教育が蔓延っている。という趣旨だったかと思います。そして最近は自ら「問い」をたてて考えられる人材が求められてきているようです。さらに教育者側の時間的窮状、余裕のなさ、それによる、一つのみの答えの問題を作ること!に走る傾向があることなどがデータとともに示されていました。ところが最近のチャットGPTに代表される生成AIの登場はそのような教育体制に根底からの危機を及ぼしている。質問を投げかけると、瞬時にAIがネットからの情報を収集して答えを出してくれるので、即答型の回答はもはや人間がすることを必要とされなくなりつつあるのです。まあまだ回答に誤りはそこそこありますが、日本の国家資格の中で最上位に位置する医師国家試験にも合格する実力をつけているというからこれは大変なことです。その他の職種や資格の試験などはスルーパスでしょう。まだチャットGPTを使ったことがある人は少ないかもしれませんが、色々なことをおしえてくれ、まとめてくれて助かります。例として「認知症にならないためにはどうしたら良いか?」という問いに対する答えを掲載します。


でも詰め込み教育が必要ないかというと、人間自分の中に知識や知見や経験が、人から見聞きしたものも含めてないと、答えがないにしても、解決策を導き出すことはできなくなってしまうでしょう。全てAIに聞いて決断しているようでは、益々人間のいる価値が少なくなってしまいます。同雑誌にあった他の記事ではこの人格の中の知恵を「溜め」と表現していました。人それぞれの判断は「溜め」とか個人の資質とか、知識・経験、人間関係や読み書きしたものからの知恵から出来上がってゆかないと、将来の世界はまるでSFの機械が支配する社会にまっしぐらに進んでいくように思います。そうなりたくなければ、そういった影響の少ない(遅れてくる)片田舎や、惑星や衛星に住むようにしないといけない社会がきてしまうように思います。

さて話が脱線しましたが、それやこれやで、私は日本が最も最初に、岸田首相が最も大切に、最も最優先課題として取り組まねばならないのは「教育」であると思うのです。話はかなり急を要します。というのは生成AIが世の中にデビューしたのが昨年の今頃で、この騒ぎだからです。日本が主導権を握って取り扱い規約を作るとか、日本発のシステムを京とか世界屈指のスーパーコンピューターを活用して作るとか、ぜひやってほしいと思いますし、日本のトップクラスの人材が努力してくださっていると信じますが、なかなか遅れをとっているな、、というのは中国から出てくるAIを用いた研究の医学系の雑誌への論文数と質を見ると思います。もちろんそれは医学だけの話ではないはずです。様々な学問、政治、経済、社会・教育にも全て及んでいるはずです。中国には、デジタル社会(架空空間)の中に建物や構造、交通そのままそっくりの北京や上海があって(デジタルツイン)どのようにものや人やお金を動かせば、街や社会がうまくいくかをAIに計算させているとのことです。ものすごい規模の事業です。現在のAIやデジタル社会の現状を把握して、AIとともに生きられる人間を作るにはどうするか?AIを制御・活用して社会に役立てられる人材を作るにはどのような教育をすれば良いのか?どこまで知識を持つ必要があるのか?などをよ~~~く考えて、教育者も余裕を持って教育にあたれる教育システムを作るべきと考えるのです。
例えば、日本の医学教育は、「教授」を中心に成り立っているわけですが、整形外科や脳神経外科、心臓外科などの、医療のスペシャリストで忙しく臨床をしている教授・部長が医学生の基礎教育を行い、シラバスを作り、、試験問題を作る。どう思いますか?そういった先生は自分の専門領域がどのように患者さんに生かされ、社会的価値をもつかということを医学生に教えるだけで良いのではないかと思います。欧米に行って、学生講義や試験問題作成の話をすると、、、先方の医師に驚愕されます。米国では医学教育専門のスタッフが充実していて、もちろん専門家にいろいろ意見を聞きますが、教育そのものの中心はその医療教育スタッフが行うのです。米国の臨床系の教授の役割は病院に医学生が回ってきた時に、いかに生きた医学を学ばせるかにかかっているのです。その面が日本ではやや(かなり)遅れています。特にコロナ禍で大変遅れました。余裕のある教育を各分野で行うためには、人的余裕とそれを支える経済的バックグラウンドが重要です。

そう。教育は未来の日本を作る人材を作る根幹なのです。ぜひ教育を真っ先に答弁の真ん中に持ってきて欲しいと思います。もちろん文科省の人たちにいろいろ指令されて様々な施策がされていると思いますが、不十分!だと思います。

次に大切なのは手前勝手ではありますが、「医療」です。日本の多くの病院は危機に瀕しています。コロナで多大な補助金が出ていたここ数年はなんとかなっていることころが多いと思いますが、来年以降は補助金は大きく減額または廃止されると思います。そしてその前から進んでいる診療報酬の改定(値下げ)とコロコロと制度の変わる補助システムへの対応が、医療機関の大変な苦境を作っています。昨年の方針は、2年後には廃止され、一生懸命それに合うシステムを作っても、それに対するインセンティブは廃止されてしまうのです。それは厚生労働省がこれという医療を推し進めたいがために、かなり恣意的な制度を作って、医療機関がそれに従わないとやっていけないようにして進めていっています。うまい方法と言えばうまい方法です。
日本の医療は世界のどこと比較しても質も量も世界一です。それを壊して欧米よりの大変逼迫した医療体制を作ろうとしているのではないかと危惧しています。皆さんご存じでしょうか、英国では脳腫瘍と診断されたのち、治療に至るのは1年半後だそうです。いくつかの種類の腫瘍では(ほとんど)、手遅れになってしまいます。米国ではそれほど悪くはないですが、医療の格差は大変なものがあります。日本の社会にそのような医療が求められているでしょうか?
病院の逼迫は、医療者への逼迫に必ず繋がり、日本の医療は今後地盤沈下してくる、安全・安心の医療が進められ無くなってしまうと思います。
日本の医療は世界一であり、世界に誇れる質を持っています。これを経済より優先することで、多分日本の経済の起爆剤にもなりうるのではないかと思うのです。日本にも日本医療機能評価というシステムがあって、かなり厳しく病院の管理体制を問われます。ただ今世界の病院は米国主流のJCI (Joint Commission International)という制度をクリアした病院が質の高い病院と言われています。日本のガラパゴス的な基準は世界に通用しません。しかしその評価を得るのに受験料だけで数百万円、その準備で数千万円という費用を要します。日本でもいくつか余裕のある病院はこの基準を獲得していますが、逼迫した一般の病院にこれを受けろといっても無理なのです。いくら質は近くても世界的に認められない。良い日本語の論文を書いても、世界では誰も見向きもしないのと同様です。日本の病院の半分とは言わず、10分の一くらいの病院がこれを取得すれば、日本の医療は世界に売り出せると思うのです。医療人が英語が喋れることはまた大事なのですが、これも教育の課題です。

最後に現在中心的課題となっている経済と軍事について一言。(ちょっと後半は問題視されるかもしれませんが、私は決してロシアやハマスを擁護しているわけではありません。)
私が渡米して9年間生活していたのは1989年から1998年です。特にバブルが弾ける前の頃は日本の経済は非常に強くて、円が世界最強でした。けれども交換レートは今とそれほど変わらず1ドル140円くらいだったと記憶しています。でもその1ドルの価値が非常に高く、見るもの全てがとても安く感じました。日本でマックのバーガーが300円した頃、向こうでは1ドル以下の89セントくらいだし、家を借りるのも月600ドルあれば3ベッドルームの庭付きの家がロチェスターという田舎では借りることができました。米国にいる時が今までで最も心が豊かな暮らしを(給与は安く、ギリギリの生活でしたが。経済的には安心感がありました)していたように思います。
今や米国に行くと狭いホテルが食事なしで1泊300ドル(4万5千円)は滅多になく、アパートは1ベッドルームでも月最低でも3000ドル(45万円)以上と聞いています。今や日本から留学、、、って経済的に無理。昔東南アジアやアフリカから米国への留学は一世一代の賭けのようなものだったのと同じような状況です。
今や日本は安くてお得な国と化し、日本も経済のインバウンド効果を求めて、中国やアジアの旅行客におもねって感謝している状況です。(悪いわけではないですが、日本の誇りってどこに行ったのでしょうか?)先日上野駅のホームに歓迎日本って中国語で張り紙してあったのですが、中国の旅行者は大きな声で電車内で騒ぐので、「車内では静かに」と中国語で書いて欲しいです。
でも海外に行かなければ、ワインや車などの輸入品を多く買わなければ日本は小麦や大豆を除けば自給自足もできる国土があります。地場産業があります。
トヨタのように世界に出て行って儲けてもらう企業には頑張ってもらって、国の中は国の中で、物価を抑えて、平和な暮らしができれば良いのではないかと思います。昨日も購入しましたが、美味しい朝じめの鶏のもも肉が五百円以下で買える日本って最高だと思います。
そんなに経済の強い国やGDPを競って突っ張らなくても、スイスやヨーロッパの各国のように誇りと自信を持って、自分の国の良いところをアピールできる国になれば、海外の観光客におもねらなくても、それほど経済に苦慮する必要はないのではないかと浅はかかもしれませんが、思います。とても苦労されていらっしゃる人が多くいる中で大変失礼ないいぐさで申し訳ありません。でも江戸時代の日本って幸せだったのではないかと思います。3,000万人くらいの人口に丁度良い国のサイズではないかと思います。先ほどの話とはやや矛盾しますが、AIやデジタルをうまく使って、人の足りない部分はロボットにしてもらう。そんなモデル国になれば日本の魅力はもっと増すのではないかと思います。「日本は教育と医療と科学の国」になるべきと思います。

さて戦争や国同士の諍いについてです。スイスで会った私の古い知人(サウジアラビアの王子で世界の地政学を研究している)が言ってました。
「日本はアメリカの言うことを聞きすぎるのではないの?」と。
今やアメリカの要望か、日本は対中国の軍備(防衛装備)に力を入れています。中国もあんまりだな、、と言う施策をすることも多々あるのですが、日本としては属国になる必要はないですが、日本が率先して、中国と敵対関係に陥る必要はないと思うのです。もし有事の時に米国は参戦するでしょうか?多分台湾と日本が最前線で戦い多大の犠牲を出す戦争になるかもしれません。今のウクライナも同様で、ウクライナの戦線に米国やヨーロッパからの軍隊はいません。経済的・軍備支援だけで、人的援助はしていないのです。いわゆるスラブ人同士で戦わせているだけなのです。中国とも同じアジア人同士で戦って、、という筋書きだよ。とのことでした。ちなみにロシアがウクライナに西側に近寄って欲しくない理由は多々あって、例えばウクライナがロシアの発祥の地であったこと。ピロシキだって、ボルシチだって、ウクライナの郷土料理です。ロシアの文化はウクライナの文化からなのです。だから主権とは言わないまでも仲の良い連合であって欲しかったのだ。とのことでした。
受け売りばかりですが、軍備費を増すよりも教育や医療、そして少子化対策への費用転嫁をして欲しい。
そして日本が率先して、中国と仲良くして、厳しいことも、辛いこともはっきり意見できる本当の友国になって欲しいと思うのです。日本がリーダーとなって種々の課題の交渉役を務めてほしい。中東やウクライナのトルコのように。トルコ。ちょっと軍事的になってしまっていますが、トルコは言いたいことははっきりいうしっかりした政治理念。国のあるべき姿を持っている国だと思うのです。
そうなるためには、ちょっと米国よりの方針を、下げても良いのではないかと思うので。私は米国も大好きですが、平和がもっと好きです。


 
雑記:
10月は様々な公的機関の方々と面談をさせていただきました。県議の出原議員と本プロジェクトへの支援、衆議院会館で小林史明議員と施設のデジタル化と、今後の本プロジェクトのあり方、福山保健局で細川総務課長と小規模運動施設の設置許可の件、そして新市の運動施設であるビッグランの小野社長と今後の小規模施設や運動施設のあり方などについてお話しさせていただきました。次々とわらしべ長者ではないですが、繋がりを紹介され、最初は何から手をつけて良いものやら途方に暮れていたのですが、少しずつ話す(依頼する)相手や人とのつながりなどができ上がってきていると感じています。
また10月前半の連休には府中外科会の超豪華な北陸旅行がありお供してまいりました。金沢での食事、錦秋の立山黒部アルペンルート(一部雪が降っていました)、神通峡、白川郷を巡る2泊3日の旅でした。近隣の外科の先生方のお話にも加わって楽しい時間でした。しかし、この辺りは広島ファンが多いですね。クライマックスシリーズ残念でした。その後ご一緒した楢崎先生から頂いた超おいしいビーフシチューのレシピを教わり、自宅で再現(とまではゆかないまでも)を挑戦し、かなり美味しい牛頰肉のシチューができました。なんとハート中山牧場(新市)では牛の頰肉を1Kg 2000円くらいで売っています。とても美味しいお肉でした。
10月後半は日本脳神経外科学会があり理事をつとめておりましたので、最後のご奉公で学会運営に携わってきました。学会の国際化には少しは役立ったかなと思っています。
朝夕がだんだん涼しくなってきました。もう年末となります。インフルも流行っているようですので、人混みではマスクをつける習慣に戻って元気に冬を乗り越えましょう。






2023年10月28日土曜日

高齢者の運動指導にも目を向けよう! 「スマート・エイジング・プラザ」の提案

 寺岡記念病院 高齢者健康医学センター

顧問 宮下 充正


趣旨

私たちが経験したことのない超高齢社会は、国家、自治体、家庭、高齢者自身にさまざまな困難をもたらしている。例えば、令和3年度の75歳以上の高齢者一人当たり医療費が、75歳未満の23.5万円に対して3倍以上の93.9万(前年比+2%)とか、医療費総額は44.2兆円(前年度比+4.6%)とか、経済的な側面においてだれがどのように負担するのかといった深刻な問題を人々に与えている。

この解決策として、厚生労働省は「地域包括ケアシステム」を提唱している。このシステムは、保険者である市町村、都道府県が地域の自主性や主体性に基づき、地域に応じて作り上げていくことが必要と述べられている。その中で、いつでも元気な暮らすために生活支援・介護予防を行う組織例として、老人クラブ、自治会、ボランティア、NPO等が挙げられている。しかし、高齢者を一括して対象としているため、いろいろな境遇にあるそれぞれの高齢者がどのように行動すれば望ましいのか、具体的な方策が示されていない。

 

高齢者を限定した提案

すでに入院治療を受けている場合を除けば、所有する資産の多寡によって、高齢者の生活する環境は下記のように、大きく3つに分類される。

  医療・介護が充実した有料老人施設で過ごす

  うまく入居できれば、特別養護老人ホームで過ごす

  入居先がなければ自宅で過ごす

3番目の自宅で暮らす高齢者は、例えば80歳代の夫婦のどちらかが介護する、あるいは、90歳代の親を同居する70歳代の子どもが介護する、といった老老介護と呼ばれる例が挙げられる。これら場合、厄介者として介護者に殺されるといった事件が頻繁に発生している。あるいは、一人暮らしの高齢者が、孤独死して数日後発見される事例が多くみられる。ちなみに、資産や身寄りがなく死亡した人数は令和3年で5万を超え、葬儀への公費負担が110億円であったと報じられている。

このような境遇にある高齢者たちを見逃さず、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義される「健康寿命」をできるだけ先に延ばし、幸せに死に至るための具体的な方策を提案したい。

地方自治体が支援してあげるのではなく、高齢者自身が主体となって小さな集団(10名程度)を結成して、それぞれに協力し合って「健康寿命」の延伸を図るのが出発点となるべきである。もちろん、自治体からの支援は必要であるが、集団の管理・運営には地域に住む元気な高齢者が当たるというように自主性が求められるといいたい。

 

施設の概要

高齢者の人口増加がもたらす経済的問題に直接かかわるのは、保険者である自治体の首長と健康・福祉の部門の職員たちである。したがって、集団は、自治体の力を借りて、居住する近くに空いた空間(空き家、使われない学校の部屋)を改修し借り受ける。あるいは、公園等の空き地に小屋を新築する。

これを「スマート・エイジング・プラザ」と名づけ、1つの集団が1日に2~3時間占有し運動、会話などさまざまな交流を行う。1つのプラザを、1日に3~4組の集団が利用し、1週間に3~5日借用するとすれば、最大に見積もると1週間に20組の集団、人数にして約200名の高齢者が交流し合うことができる。

 

エクササイズ

参加する高齢者が「健康寿命」の延伸するのがプラザの目標であるから、効果が上がるエクササイズの実践が主たる活動内容である。下記のようなエクササイズ・プログラムを実行し、一定期間継続すれば効果が期待される事実は、多くの疫学的調査、あるいは、介入実験などの科学的研究成果が明らかにしている。そのため、知識と経験のある健康運動指導士(者)の役割が不可欠であるといいたい。

 

1.“力強さ”を保持・改善するエクササイズ

力強さの保持・改善のためには、筋肉に負荷を与えて行うレジスタンス・エクササイズがよい。この種のエクサイズは、短時間の実践でも1週間に2~3日行えば効果が得られる。

 

①脚・腰を中心とした下肢の筋肉をはたらかせるには、腰、膝関節をやや曲げたかがんだ姿勢からの立ち上がり(スクワット)、あるいは、腰かけから立ち上がる運動が有効である。

例えば、腰かけに浅く腰を下ろし、胸の前で両手を組みやや速く立ち上がり、ややゆっくり腰を降ろす。1回の反復は約3秒かかるから10回反復で30秒間である。20回反復しても1分間で終わる。反復する回数を分けてもよいから1日に合計100回反復する。自分の能力に応じてできる回数から始め、疲れたら休息し反復する。しだいに連続してできるようになるから、とにかく1日に合計100回反復するのを目標とする。

 

         



 

②肩、上肢の筋肉をはたらかせるには、腕立て伏せ(プッシュアップ)が有効である。台の上に両手を置き、腕を曲げた状態からやや速く伸ばす、腕が伸びきった状態からゆっくり肘を曲げながら元に戻す。時間は反復で約3秒間かかるから、時間を分けて1日に40回反復する。運動の強さは、両手を置く台の高さがテーブル、椅子、床と、低くなれば強くなるので、自分の筋力に合わせた高さの台を選択する。最初は40回連続してできないだろうから休みを入れて何度かに分けて40回実施する。


       

③体幹(腹筋)をはたらかせるには、上体起こし(シットアップ)が有効である。仰臥姿勢をとり、両ひざを曲げて足部分を固定し、腕を胸の前で組んで上体をやや速く起こし、ゆっくり元に戻す。時間は約3秒間かかるから、10回反復する。時間を分けて1日に4セット行う。弱い人は、最初上体を床から上がらなくても上げようと腹部の筋肉に力を入れるだけでもよい。軽く上げられる場合は、ペットボトルに水を入れて両手で持つか、重いものを持ち、筋力がついてきたら重量を増やす。足先が固定された方やりやすいので、2人で交代に足部分を抑えてやる。とにかく、1日に合計40回反復するのを目標とする。

       


(レジスタンス・エクササイズ用の新しい機器は今仙電機製作所が開発中)

 

2.“ねばり強さ”を保持・改善するエクササイズ

ねばり強さの保持、改善のためには、腰や脚の大きな筋肉を、1日に低い強さで20~30分間活動させる。1週間に5日行えば十分効果は上がる。自宅とプラザまでの距離が適当であれば、往復を歩くか走れば十分である。とにかく、歩く、走るなどの反復運動が勧められる。

狭いプラザ内では、音楽(聞き覚えのある歌)のリズムに合わせて、ステップ・エクササイズを行う。“ややきつい”と感じる程度の速いテンポのステップを混ぜると効果が上がる。プラザの近くに安全に歩きやすい道があれば、天候のよい日に歩いて往復する。その際、歩く能力に合わせて、距離のわかる標識を100mごとに置き、自分が歩いた距離を確認する。


 

プラザの運営

緊急事態に備えて、医療機関との連携を取り決めておく。市町村、都道府県の関連職員と集団の代表が定期的に集まって、利用日、時間、内部施設の見直し、などを相談する。また、会費の徴収についても、検討すべきである。

とにかく実現可能な簡素な施設、設備でよいから、まだまだ深刻化する超高齢社会を乗り切るためにみんなで積極的に取り組むことが急がれるのである。

























2023年10月3日火曜日

素戔嗚プロジェクトの活動報告:フレイルの真髄と予防について

 センター長・脳神経外科顧問 森田明夫

やっと暑さが下火になり過ごしやすい日々がやってまいりました。暑くて熱中症予防で外に出るな!と言われてましたが、やっと散歩の季節となりました。ぜひ一日7000歩を目指して頑張りましょう。(できれば週2回は最低でも)
    
さて素戔嗚プロジェクトも開始して半年が過ぎましたが、なかなか実体が伴ってきておりませんが、なんとか少しずつでも地域の役に立てるよう頑張ってゆきたいと思います。9月前後の活動をまとめたいと思います。
    
1.    Walking eventの開催
8月30日にこれまで何度か紹介してまいりました板橋千代美先生のwalkingクラスを開催いたしました。25名ほどの参加がございました。今回は通常の靴の履き方からしっかりとしたwalkingのスタイルの紹介のほかに、口腔機能の維持のために「あ い う べェ」発語体操を教えてくださいました。(図1) これは新市で行なっている介護予防の健康教室で口腔ケアの先生方が指導されていた内容と同じです。口を大きく使って「あ い う べェ」と発音 べェのときは舌を思いっきり前に出します。これを10回1日3セットすれば、口の機能は向上・維持されるというものです。以前お勧めした大声での朗読も良いですが、こちらのあいうべ体操はお風呂でもできます。また板橋さんは下記のような歌も紹介してくれました。なるべく早口でリズムをつけて5回くらい繰り返して歌います。
「ベラベラ ボンボン ベラボン ベラボン カラコン カラコン カラカラコン
タラタラ トントン タラトン タラトン ブリブリ バンバン ボンボンボン」
これで唇、舌先、舌元をうまく動かすことができます。

図1:あいうべ体操


2.    医療講演会の開催
また9月4日(月)には前回も紹介いたしました地域の医師・医療者向けに「認知症と地域医療を考える会」として山口県立総合医療センター へき地医療支援部の原田昌範先生 三重大学特定教授・脳ドック学会理事長の冨本秀和先生においでいただき、講演会を開催させていただきました。地元の先生方100名超に現地及びWebでご参加いただきました。原田先生はへき地医療をITを駆使したオンライン訪問診療、クラウドを用いたカルテの共有化も進め実施されており、ぜひこの地区でも活用したい技術を紹介いただきました。冨本先生は先生がこれまで関わられてきた認知症医療について、及び今回新たに承認となった抗認知症薬(タウ蛋白抗体)であるレカネマブの機序、効果、注意点などの詳細を説明いただきました。脳梗塞、微小出血既往のある患者、tPA投与後の患者さんとかは出血などをきたす可能性があるということで注意が必要とのことでした。

図2:講演会後の集合写真

3.    今仙電気 研究開発拠点訪問
その後9月13日ですが、当センター顧問の宮下充正先生からご紹介いただいた自動車のシートなどの部品を作られている今仙電気の犬山にある開発センターを訪問させていただきました。今仙電気は本業の技術力を活かして100歳まで元気で歩けるための補助活動を社会貢献としてされており、車椅子や歩行補助ロボット、また歩行を向上するための様々な取り組みを紹介していただきました。特に現在開発中の椅子側を動かすレッグプレス機や歩様の画像解析は非常に進歩していて画期的なアイデアと技術を活かしていると感じました。もともと自動車のシートのアジャスターを作られているので、シートを移動させる装置の開発はお手のもので、それの負荷をかけて、大腿に負荷をかけられるようになっています。足板を押すタイプよりも膝への負荷が少なく安全性が高い装置になると確信しました。自宅にあれば良い運動にもなるので、スペースがあれば欲しいくらいです。新市の交流施設に試験的に配備していただけるように相談を進めています。また歩様の画像測定機器はいろいろなexpoにも出展されており、私の古巣のリハビリの教授に相談して活用法を検討してもらっています。また当院でも今月デモをしていただき、当院のリハビリスタッフにも活用法やどのように広めて行くかなど検討したいと思っています。その他膝の伸展や回旋を計測・訓練する機器なども構築されておりました。
もともと私は城とかローカルグルメとか大好きですので、初めて国宝犬山城を訪れることができました。日本に5つしかない現存の国宝天守を持つ城です(他は姫路、松本、彦根、松江、現存は12ヶ所あるそうです)またお昼もボリューミーな味噌カツをご馳走になりました。またその足で韓国と日本の脳卒中外科の合同学会に出席し、岐阜城(稲葉山城)も見てきました。金華山は非常に険しくて、タクシーでは城まで行けずロープウエイで行く必要があります。帰りくらい歩いて降りて見ようと思いトライしましたが、難所につぐ難所で手で地面に支えて降りていかないと行けないような岩場もあって、標高300mほどなのですが、降りるのに1時間半ほどかかりました。これはこの城は難攻不落だったろうなと 斎藤義龍・龍興と織田信長の戦に思いを馳せることもできました。韓国の懐かしい先生方とも久しぶりに対面でお会いすることができました。

図3:今仙電機の歩行訓練の取り組み

図4:犬山城

図5:岐阜城


4.    飯島勝矢先生公開講座 フレイル・オーラルフレイル予防
最後に10/1に東京大学未来ビジョン研究センター教授・高齢者社会総合研究機構 機構長の飯島勝矢先生に福山までおいでいただきビッグローズで1時間半にわたる市民公開講座を開催していただきました。非常に大きな声で滑舌が良い先生でわかりやすくフレイルの概念とそれを防ぐ・改善するためにどうしたら良いのかを根拠!を含めて説明し、先生の活動を紹介していただきました。
先生が伝えたいと思われたメッセージは以下のようなものと思います。
まずフィーリングではなく根拠に基づいて、しっかりとフレイルを知って欲しいということ。
その上でフレイルの概念の3つ大切なことは、
1)フレイルは正常と要介護の間の状況であり、まだ戻せる状態であるということ。すなわち回復可能な状況であるということ。
2)多面的な側面(特に心・認知、身体・筋力、そして社会活動)からなっているということ。
3)また老いはゆっくり始まるが、フレイルからはかなりのスピードで悪化するということです。
またその概念を唱える上でサルコペニア(筋肉減少)という概念はよくしっておく必要があります。筋肉は高齢者では年1%ずつ(18歳から)減少していること。寝たきりになると1日で0.5~1%筋肉減少2週間で7年分の筋力減少してしまうこと。高齢者が検査入院や避難所に数週間いるのは、甚だしい筋力低下を来たすことを強調されました。

図6:フレイルとサルコペニア

 

そして3つの大切な予防法として最初には下記の3つを示してくれました。
1)    しっかり噛んで、しっかり食べること
2)    体を動かすこと。1日7000歩を目指して
3)    筋肉特に大腿の筋肉を保つ、作ることが必要 (歩行では大腿筋はつかない)

食べることに関しては、なにが大事かというと
タンパク質を摂ることが大事!というのはよく言われることですが、では何gのタンパクを取れば良いのか?ステーキなら何g食べれば良いのか?と直感でわからないといけない
飯島先生曰く 体重1kgあたり毎日1gのタンパクが筋肉維持には必要。フレイルの状況からだと1.2~1.5gぐらいの蛋白が必要となる。すなわち60kgならフレイルを脱却するには一日80~90gの蛋白質をとる必要がある。
それは牛肉でもなんの肉でも100gに20g(20%)くらいしかタンパクはありません。すなわち牛肉だけで蛋白を80g取ろうとすると「なんとステーキ400g!」も必要になるのです。
それと蛋白を体に同化するには活性型Vitamin Dが必要です。Vitamin Dは日に当たらないと活性化しませんので、時たま陽に当たることも重要です。またVitamin Dは魚、きのこ、卵、豆類などに豊富です。
食事に関してはそれと、多くのカロリーをしっかり摂ること。それと多様な食品(偏らず)を摂ることが大事ということ。以下の4項目が重要となります。
1)総エネルギー量、 2)蛋白質、 3)食品多様性、 4)ビタミンD
「さあにぎやかにいただく」を合言葉にいろいろなものを食べましょう。65歳を過ぎたら、メタボよりもフレイルを気にすることのほうが大事とのことです。

図7:食事の4重要ポイント

 

またフレイルの簡単チェック項目として4つの漫画を示されました。
1)    横断歩道! 高齢者になると信号が青の間に横断歩道を渡りきれなくなる。改善するためにはただ大股に歩けば良いのではなく、腕を後ろによく振ること。後ろに振ることで自然と歩幅が大きくなります。
2)    階段。階段を登れるか?歩行は基本下腿・ふくらはぎの筋肉でされるが、フレイルでもっとも大事なのは大腿の筋肉を維持すること。最低1日1回は階段を使って上がる。またはスクアットをする。または、椅子に座る前人拳分くらい中腰になって10秒 これを1日10回すれば少しは太ももの筋力強化になります。
3)    ペットボトル(特に炭酸の)を蓋を開けられるか?
4)    指で紙をつまめ維持できるか?
3)、4)は足の筋力とは関係ないですが、こちらが弱ければ足もまた滑舌も悪くなり、誤嚥などをきたしやすくなるとのこと。
手の筋力トレーニングは以前も紹介しましたが手うちわとグーパー運動が効果的とのことです。

図8:フレイルチェック


またオーラルフレイルの項目として
①歯の数が20本より少ない ②噛む力が弱い(たくあんやサキイカを食べれない) ③汁物でむせる。食べこぼす。 ④口が乾く・口臭がある ⑤滑舌が悪い
のうち2項目以上あるとオーラルレイルの特徴だそうです。

口のトレーニングは先に板橋さんの紹介にもありましたが、ぱ!た!か!ら! としっかり言えるように。早口で練習。「あ・い・う・べ体操」も効果的です。

図9:オーラルフレイル

最後に先生からは、先生が出演された 「ためしてガッテン」(ちなみにかくいう私もずいぶん昔に未破裂脳動脈瘤の話題で出演したこともあります:未破裂脳動脈瘤の治療は自分で決める!)で番組プロデューサーとの打あわせで先生の地域住民調査をデータ出すことになった。地域住民5万人弱を調査した大規模な研究で、身体活動(週2回以上の30分以上の運動)、文化活動、ボランティア・地域活動の3つのうちどれかしているかという質問に対して、すべて○の人に足して何もしていない人はフレイルリスクが16倍だったそうです。
また運動習慣のない人は2倍だったの対して、文化活動や地位活動をしない人は6倍のリスクだったとのこと。すなわち運動よりもむしろ文化活動や地域活動をしている方がフレイルにはなりにくい。「もう2000歩 歩くか?」よりも「誰と歩くか?」「誰と一緒にいるか?」の方が大事!!とのことです。
これのような活動熱量をNeatというそうです。Non-exercise activity thermogenesisの略です。日常人との交流をしたり、料理したり、ちょこちょこ動くことが大事とのことです。また先生の全国でのフレイルサポートの活動も紹介していただきました。

図10:フレイル予防3本柱  

図11:飯島先生は滑舌が良い


5. 雑談
    さて今月は大変いそがしい月でした。上記のような活動のほかに、プラハで私の関わっている世界脳神経外科学会連合の会議が突如対面で開催されたため、土日弾丸で1.5泊4日でプラハに出張。その後月末にはバルセロナでヨーロッパ脳外科学会、直後に長崎で脳腫瘍の外科学会(昨年の学会の会長だったので報告義務あり)でほぼ海外と広島を行ったり来たりでした。ですのでチキンのソテーは先月は作れていません。バルセロナでは1日観光できたので、ガウディの公園やサグラダファミリアなども見学できましたが、何か人間の体の中を表現しているな と感じました。サグラダファミリアの中は外側の土色とうって変わって色とりどりなステンドグラスで色鮮やかなのですが、柱がまるで心臓の弁を支える腱索の様でした。パエリヤやサングリア、タパス、ピンチョスなどスペインのレストランでの食事・酒のつまみもおいしかったのですが、一番よかったのは、市場で買ってきた惣菜(いわしのマリネ、アンチョビローブ漬け、イベリコハム、エビとイカ墨のコロッケ、パン、缶詰)などが地元のワインと最高でした。長崎は何としてもちゃんぽんですが、米国留学中に日本食に飢えていたところ、2年後にMayoにやってきた長崎出身の植木敬介先生(同級生です。奥様はテレビによく出演される植木千可子早稲田大学教授です)が地元から持ってきた半生ちゃんぽんが驚異的美味しかったのを覚えているのですが、それを長崎駅で見つけて購入し早速自宅で作りました。お店以上に!?美味しかったです。

図12:WFNS ACメンバーとプラハ

図13:サグラダファミリアにて

図14:スペインの食事

図15:ちゃんぽんいろいろ