高齢者健康医学センター 森田明夫
これまでの何度か触れましたが、今回はBlue zoneについてまとめます。
Blue zoneという言葉は、健康長寿をテーマに扱う人間にとっては知らないと恥ずかしい言葉ですが、実際に私がこのことを知ったのは2023年11月に開催された日本脳神経外科認知症学会でのことでした。会長の石内琉球大学脳神経外科教授の取り計らいで、当院の会長を含む3名の80歳以上で現役で活躍中の認知症や地域医療に尽くしておられる先生方の教育講演が組まれていました。当院の寺岡暉会長は本プロジェクトのことも含めて先生がこれまで努力されてきた最良の地域を包括してケアする医療の提供のあり方についてお考えと実績をまとめられた。またもう一名尊敬する札幌医科大学名誉教授の端和夫先生(未破裂脳動脈瘤の調査で指導していただきました)は現在興味を持たれているいかに認知症を予防するかという科学的文献のレビューを徹底的にされた。驚くべき汲めども尽きぬ探究心です。そして最後に琉球大学の外科教授であった鈴木信先生が登壇された。先生のお話の概要は、沖縄は先の戦争で47万人の人口のうち1/4超に当たる12万人が民間人も含めて戦死したことに触れ、その後の復興のこと。そして昭和30年代には、沖縄では100歳以上の方が100名以上いたこと。そしてそのほとんどが認知症などを患っていなかったこと。そのような調査で沖縄が世界一の長寿地域であることが認められたとのことだった。Blue zoneとして認定され鈴木先生は沖縄Blue zoneの代表を務められている。しかし残念なことにその後沖縄の平均寿命は低下し、長寿者の中にも認知症の方が目立つようになったとのことである。その原因はとかく食の欧米化が原因とされているが、それだけではなく、生きがいの欠如なども原因であろうと話されていた(と思う)。沖縄には古くから模合という風習があり、月に一度は古くからの仲間が寄り集まって、飲み食い談笑する。その場でお金を積み立てて、次の会合や旅行のための資金とするというものだ。その模合があるからこそ沖縄の人たちは、近所や友と日常的に付き合い、生きがいを持って生きていられる。都会的となった沖縄ではそういう習慣が薄れてしまっているのかも知れません。
さて話をBlue zoneに戻します。Blue zoneという言葉はもともとイタリア サルディーニャ島に長寿の人が多いことから地元の医師が言い出した言葉だそうです。その後National Geographic誌とBlue zoneを広めたDan Buettner氏が世界の長寿地域を取材し、5か所の世界のBlue zoneを認定し、その地域に住む人たちの習慣から健康長寿のためのギミック(こつ)を得ようとしたことから始まる。こちらに彼のTEDの番組(英語/AIによる同時通訳字幕がつきます{右下の矢印の隣のボックス})があります。長寿や生命・健康は遺伝子からくる要素は10%に過ぎず、90%は生活習慣からくることを最初に述べ、様々な長寿をもたらす習慣から学べることをよくまとめています。彼が中心となった著者BLUE ZONESでもかなり詳しく5つのBlue zoneのことを記載し、最後に9つの共通事項をまとめています。
ただ課題は、そのような習慣がわかったとしても、なかなか自分の習慣としてつけることは難しいことを強調しています。運動習慣やダイエットなども同様で長続きしないのが常です。ではどうすれば良いのか?自ずと生活の中でそうならなければならないようにする工夫が大事とのことです。例えば便利なものを避ける。歩ける距離は歩く。階段を使う。食事は小皿に分けて食べ切る(それ以上は食べない)。などが大事とのことです。
また「類は友を呼ぶ。」友人が肥満であれば、本人も肥満となる。大酒を飲めばそうなる。一方で運動や散歩や健康的な食事が好きな友が周りにいれば、自然と健康になるというのです。沖縄では先の模合でいつも6人以上の子供の頃からの友達と90歳過ぎまで話あい助け合って生きています。親しい友と言える人は米国では30年前は3人、今は平均1.5人となっているそうです。
まず5か所のBlue zoneですが、
1) イタリア サルディーニャ島・バルバギア山岳地帯
2) 沖縄 本島北部
3) 米国 カリフォルニア州 ローマリンダ在住アドベンティスト
4) コスタリカ ニコヤ半島
5) ギリシャ イカリヤ島
となります。
どの地域にも共通なのは、豊かでリッチな生活をしている地域ではなく歴史的に迫害されたりして厳しい環境で暮らしていただろうなあという地域です。その地域で慎ましく、日頃険しい地域を耕したり羊などを飼ったりしてくらし、家族や仲間を大事にして生きてきた土地となります。すなわち環境や境遇が自ずと長寿となる条件を作っていったと考えて良いかと思います。
ギリシャのイカリア島といえば地中海に浮かぶ楽園のようなリゾート島かと思われるかも知れませんが、トルコとギリシャの間の島で、常に戦争に巻き込まれていました。島周辺は風が強く、かつ港も整備されておらず、平地がありません。15Km隣のサモス島は地中海リゾートとされていますが、本島は歴史的に非常に貧しい島でした。
たまたま今朝(2/4)のNHKマイあさラジオで沖縄の北中城村が日本一長寿の村、そして住みたい村となっていることが紹介されました。以前も紹介しましたがそこにあるカナという料理店で出されるイラブー汁(海蛇汁)は本当に長寿になりそうなくらい美味しいです。87歳のおばあが作ってくれます。実は私はそれほど北中城村そのものを見て回ってはいないのです、次回チャンスがあればぜひ周りの散策もしたいと思います。
ではどの地域でも共通する9つのルールとはなんでしょうか?
ルール1:適度な運動を続ける
「肥満の友人を持つと肥満になる可能性が6割高い。(NEJM)」という研究成果がFramingham研究の一環から明らかになっています。価値観を共有できる友や仲間と定期的に会う事が大事です。できれば一日30分一緒に過ごすこと。今はremoteでFace timeやzoomで話をするのも一手かも知れませんね。
以上のようにいろいろ参考になる生き方がまとめられていますが、どれもすぐに全てやろうとしてもうまくいきません。まずは1つ2つから始めて、健康でいることを楽しく思えるようになれば良いと思います。なお長寿の薬とか健康になる薬とか簡単なものはありません。いろいろキャッチーな宣伝がありますが、無駄です!痩せ薬として糖尿病の薬が米国などでは認可されていますが、確かに一時的には体重が減るかも知れませんが、日常生活を改善しないで健康はありません。薬で作った体調は遺伝子組み換えの穀物みたいなものです。
雑談:
2024年1月はいろいろ法事とか、実家の整理とかで忙殺されました。でも1月13日には本センターの顧問の宮下充正先生に公開講座をしていただきました。ますますお元気で活力のあるお話をされ、皆様元気をいただいたと思います。90歳近くになっても1時間半のとてもわかりやすくvividな講演をこなせる体力・知力・胆力には感嘆します。自分もそうあれるようしっかり運動して認知力が落ちないようにしたいと思います。会に先駆けて今仙電機が開発した歩行チェックシステムで講演を聞きに来られた方たちの歩行診断を行いました。みなさん自分の歩き方を動画や数値で見せられて改善の意欲を持たれていたようです。なるべく歩幅を大きく手を振って早歩きをすると良い点数が出ます。
最後に食事の方は、相変わらず美味しい福山のお魚料理と自前では中林さんの朝締め鳥のソテーとか、手羽のポン酢煮などを作って食べています。ちょっとストレスかアルコール量が多くて肝臓が心配になってきていますので、2月は少し節制したいと思います。写真は学会で行った札幌での昼食の功罪です。どうしてもやめられないすみれの味噌ラーメンといただきます(昼からやっているジンギスカン屋さん)のジンギスカンの紹介です。どちらも非常に美味しいです。
皆様もう暦では春となります。能登は復興途上ですし世界では紛争が相次ぎますが、健康な社会と体を目指して何か一つでもできることから始めましょう。