2024年3月4日月曜日

筋トレと人間ドック

高齢者健康医学センター 森田明夫


運動が糖尿病や高血圧などの生活習慣病を改善し脳卒中や認知症を予防することはこれまで多く発表されていたが、最近の科学的な背景が明らかになってきたことを先日脳神経外科での勉強会で当院脳神経外科部長の竹信敦充先生が紹介してくれました。運動は血流改善によって脳血管や心臓の血流を改善し、海馬を肥大させるような因子を増加、神経の炎症を抑える、血管新生などのほか、従来運動をすると筋肉からなんらかの物質が出て脳や脂肪細胞を賦活することが予想されていました。これはミオカインと名付けられていましたが最近Irisin(イリシン、アイリシン)という細胞膜蛋白の分解産物が、ネプリライシンという物質の分泌を促進し、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの脳内蓄積を抑え、脳の神経細胞の障害を防ぐことが明らかになってきたとのことです(Neuron)。高齢者と若者に週3回以上40分程度のWalkingをしてもらった研究では、特に高齢者で本ホルモンの増加が認められたとのことです。元々この物質は脂肪細胞を褐色脂肪細胞というエネルギーを消費しやすい細胞に変化させることも知られていました。骨を振動させるなどの刺激も同様な作用を持つ物質:オステオカルシンとかオステオポンチンなどが出て海馬に作用したり免疫力をアップしたりするそうです。
では、どのように運動をすればということに関しては、1)歩行や水泳、ランニングなどに代表される有酸素運動と、2)筋肉を増量させるような筋肉トレーニングがあります。どちらが良いかということはなく、できる限り組み合わせて行うのが良いようです。1)の歩行についてはこれまでも何度かwalking classの紹介などをしてきましたので、今回は筋肉トレーニングについてまとめたいと思います。
2月4日(日曜日)にテレビ筋肉体操などに出演されている谷本道哉先生に福山に来ていただいて「人生110年時代を目指す 自宅でできる筋肉体操」という講演と筋肉体操指導をしていただきました。皆様の中にはNHKのラジオ体操をされている方もいらっしゃるかと思いますが、ラジオ体操ではまず『無理をせずに….』という注釈がつきます。確かに運動で体を痛めては仕方ないですし、痛いところがある場合にはそこは弱めにやる方がいいのですが、どうも膝を曲げて背中を伸ばしているつもりになったりという事例を紹介されました。やはりなんちゃって体操になってしまっているようです。そこで谷本先生は超ラジオ体操というのを紹介しています。YouTubeでは谷本先生のいくつかのセッション(新潟けんじゅ体操基本3種筋トレやはやは元気体操)やこの超ラジオ体操も紹介されていますので観て実際にやってみてください。これやってみるとかなり関節が柔らかくなる感じがします。ちなみNHKの番組は公共放送なのでYouTubeでの公開は許可されていないそうですが、この番組だけは例外とのことで、見ることができます。ぜひ載っている間に覚えましょう。
さて谷本先生の講演ですが、要旨はまず1)高齢者の定義が変わっていること。2017年日本老年学会が高齢者の定義を65歳から75歳に変え、65から74歳は准高齢者、高齢者は75歳から89歳、90歳以降が超高齢者となりました。ただ要は数字で高齢者を感じないことが大事。何歳でも筋肉は作れますし、若返ることができることを実例で示しています。ついで、2)谷本先生が私たちに毎日してほしいことを3つ挙げています。


①    朝起きたら1分間の超ラジオ体操で体を柔らかく姿勢を良くする。特に背中の筋肉を伸ばして縮める。背中を伸ばす! 
 
②    どこでも筋トレをする。5分でできる「いつどこ筋トレ!」です。


③    歩ける距離は歩く!(100m以上は車という常識はなくす)大きく手を振って歩く。 


 
特に最近は腹筋女子とか言って、腹筋を作ることが流行にもなっているようですが、実は腹筋ってあまり使われていない筋肉なので、腹筋を鍛えても体は強くならないのです。体を支えている筋肉は背筋であって、こちらの筋肉をしっかりトレーニングしておくことが重要です。また②の手を振って歩くためには、カバンを手に持つことを避ける必要があります。そのためにはカッコのいいリュックを購入することを薦められています。ちなみに谷本先生は黄色の大きなTHE NORTH FACEのリュック(Uber EatsやWoltの出前さんたちが使っているものの上級版)を使っていました。
これまでも紹介したFrailやサルコペニアなどについては、高齢者では特に重要な筋肉が痩せやすいこと。特に瞬発力に関与する速筋が萎縮しやすく、速筋は普通のゆっくりした歩行などでは増量できず、速筋を維持・増やすためには筋トレが重要であるとのことでした。また筋トレは一回ずつしっかりと深くすることで筋肉の伸び・縮みがしっかりされることで筋肉の成長が促されること。また重い負荷でなく低負荷でもこれ以上できないというところまで頑張れば、高負荷と同様な筋肉を増やす効果があるとのことです。また歩行など持久運動は、できるだけ早く歩くなどで普段の道をジムにすることができるとのこと。
いつどこ筋トレの主体は①しっかりスクアット(2秒で降りて2秒で上がる)②椅子腹筋(レッグレイズ)③机腕立て(胸をつける)そして④背中の屈曲とばんざい伸ばしです。
いつも谷本先生が言われているのは「やるか。すぐやるか!」です。筋トレは思い立ったら吉日!すぐに始めましょう。

 
ただこんなことを書いている私はといえば、東京から福山に来てまず歩行距離が激減、筋トレジムに行く機会も激減してしまい、毎朝部屋でする腕立て、腹筋、スクアットとショルダーレイズくらいしかできないのが現状で、さらに日頃のストレスか飲酒量も増えてしまい、、情けないくらいのリバウンド状態です。ちょっと追い込み筋トレに励んでみようと、、、思うのですが、すぐやってはいないです。


次の話題は人間ドックです。友人の紹介で彼の教え子がやられている新宿の人間ドック施設でここ4年間くらい毎年1回人間ドックを受けています。一般的な身長・体重・腹囲、眼底、視力、聴力、レントゲン、呼吸機能、癌のマーカーも含めた血液・尿検査、痰の細胞診、腹部ECHO検査に加えて胸・腹部のCT、プロポフォールという麻酔薬下で寝ている間に一度に上下消化管の内視鏡検査をしてもらっています。3日前から禁酒と繊維質の食事を控えめにして、当日早朝から腸内洗浄薬で腸内をきれいにしてから検査を受けます。4回もするとなれるかと思いますが、消化管洗浄はなかなか大変な作業です。ドックで病気がないことをチェックするのも重要ですが、でも年に一度腸内洗浄して消化管をきれいにすると身体中の毒気が抜かれてゆく気がします。実は1年目はなんともなかったのですが過去2回は大腸のポリープが見つかって(癌ではなかった)摘出してもらっています。それはどうも服用してた漢方薬が影響していたようだったので、この1年はその漢方や便秘薬を一切やめてみました。すると幸いなことに今年はポリープができていませんでした。そういった習慣での病気を発見する意味でも年に一度くらいは全身チェックをしておくことをおすすめします。また麻酔下で上下消化管内視鏡検査をやってもらうと寝ている間に辛い検査が終わるので、これはまたおすすめで、当院でもそのようなシステムができないかと考えています。
いずれにしても皆さんも年1のデトックスを目指して健診・ドックをされることをおすすめします。
ただまた残念なことは、私たるや今年はポリープがなかったので、何を食べても飲んでも良い(ポリープがあり摘出すると飲酒や強度な運動は1週〜1ヶ月 制限がかかります)とお墨付きをもらったので、当日から飲めや歌えや、、、の状況で、かなり反省しています。以前同施設でポリープ摘出後の方が、腸管穿孔をきたして救急搬送されている状況に出会いました。なかなか怖いですね。

運動と定期検診・ドック ぜひおすすめです。また暴飲・暴食は自制して、健康な生活を送りましょう。


雑談:
2月の第2週中心にサウジアラビアの友人に招かれてサウジアラビアの脳神経外科学会に呼ばれて行ってきました。元々私は中東の国にはイスラエル以外は行ったことがなく、サウジアラビアというとOPECの中心国で、王子がかなり乱暴なことをする。大きな国でほぼ全体が砂漠、アラビアのロレンス、メッカというイスラム教の聖地がある、、くらいしか知りませんでした。首都は、、、リヤドだったか?くらいの知識でした。皆さんもあまりよく知らない国ではないかなと思います。元々日本からの直行便はありません。ですのでいつも使っているANAで行こうとするとものすごい時間がかかるので、今回はやむなく(?)JAL系の路線を使ってリヤドまで行きました。学会はリヤドから2時間くらい飛行機で飛んでゆくサウジの半島(?)の南西端にあるGizanという街での開催でした。ちょっとフーシ派が暗躍しているイエメンとの国境近くで船がよく沈没されている紅海沿岸なので、ちょっとヒヤヒヤしながらの旅程です。スンニ派とシーア派という言葉を聞いたことがあるかと思います。イスラム教の2大宗派です。サウジアラビア、エジプト、イエメンなどはスンニ派、イラン、イラク、イエメン、シリアなどはシーア派が多くいる国として知られています。とはいっても国別ではっきり分かれているわけではなくサウジアラビアにもシーア派の人は10%くらい住んでいるとのこと。元々遊牧民の国ですから国境自体が曖昧な感覚で管理されてきましたので。でもその宗派でかなり考え方が違っています。その複雑な分布が国家での戦乱や不安定の要因ともなっているようです。
サウジアラビアの学会はとても若くて、今年で18年目(日本は78年)です。だからといって遅れているというわけではなく、国にはオイルマネーがたくさんありますから医療施設には最新の医療機器を備え、若手の優秀な人材を国家のお金で留学させて最先端の医療を学ばせてきます。その上外国人の優秀な医師を雇用しています。脳神経外科医の半数は外国人だそうです。現在サウジには250名ほどの脳神経外科医がいるそうですが、特に女性が多くて若手では半数以上が女性とのことです。元々イギリスの植民地でしたので、英語は第二標準語のように使われており、小さな商店でもどこでも英語が通じます。また教育や学会は全て英語でされています。学会では若手の学生や研修医のセッションが研究コンペティションや知識クイズセッションなど色々充実していて、若手の先生の目がキラキラしているのが印象的でした。私は医学生の研究発表の評価員をさせてもらったのですが、なかなか面白い視点の研究を学生がしっかりと発表していました。コメントや質問もしたら後で、色々学生さんたちから質問や日本での留学の機会などについて聞かれました。男性は例の白い長い服、頭には赤い網目模様のベールをして輪で止めています。この輪は昔ラクダで旅していた時の名残で、ラクダがいなくならないようにラクダの前足膝を折って抑えておく道具だったそうです。(本当か?不明です) 女性は黒ずくめで目だけを出している人がたくさんいます。中には顔をしっかり出してベールをしている人もいるのですが、この違いは宗教的なもので、未婚・既婚とかの違いではないそうです。黒ずくめの女性(私は宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」に出てくる顔なしに格好が似ているので 通称 顔なし と呼んでいましたが、非常に失礼でした)。宮崎監督の顔なしは 「自分を持たず、出会うもの、人によって変化するのがカオナシという存在なのです」とのことです。サウジアラビアの女性は目だけ出していてもすごい一生懸命で、学会発表もするし、親しく質問してきたりもします。目だけの女性というのも非常にミステリックですが、これは宗教上のことをしっかり守られているので、日本人の無宗教者が何も言える立場にはありません。食事もあのベールの下から口に入れるので、大変そうでしたが。
興味深かったのは、出生率が高く子供が多いのと、やはり肥満者が多く脊椎の病気が多い、また交通が激しいくて交通事故が多いので、脳外科医の興味の中心は小児脳外科、脊椎・脊髄外科、外傷、もう一つは留学者が帰ってきて特に頭蓋底が興味を持たれていることです。日本では最も関与する脳外科医が多いのは脳血管障害です。サウジでは脳動脈瘤破裂が少なく、またすでに脳梗塞や脳出血に対する脳神経外科の手術は時代遅れとなった時代から脳外科そのものが始まっているので、血管障害は大きな中心にはならなかったのでしょう。社会の病気の主体や学会が始まった時の医学の常識でかなり注目される専門領域も変わるのだなと思いました。留学ですが、昔は日本に来られる先生が多くいらっしゃいました。でも最近はカナダの脳神経外科学会と提携して、毎年一名をどこかの研修病院に送って脳神経外科の研修を終了(6~7年)させてくるとのことで、一名1年10万ドルを施設に支払っているとのことです。当然そこに選ばれるのはエリートで、今回の学会主催の会長も現在40歳でエドモントで研修して帰国早々大学の脳外科主任になっているとのことです。


 
さて社会に目を向けると、道は車しか走っていません。歩いている人はまずなく、歩道もありません。もちろん自転車運転などありません。車を持っていない人はどうするのでしょうか?地下鉄や鉄道などの公共交通機関もほぼ無いそうです。それでリヤドやジッダなどの大都市では交通渋滞がすごくて、ちょっとした距離の移動で1時間はゆうにかかってしまうとのことでした。交通規制は一方でかなりきびしく道のありとあらゆるところにカメラが備えてあり、速度違反や路線を守っていない車は自動認識されてとてつもない罰金(10Kmの速度違反で数10万円)を取られてしまうことです。
現在サウジはもちろんものすごいオイルマネーで潤っているわけですが、昨今のSDGs、脱炭素の動きから、国として脱石油を目指して、2030年計画として、ITやAI、機械産業などさまざまな石油以外の産業を国家予算で進めているとのことです。そういうわけで、今回行ったGizanなどは、どこも工事中で、大型トラックが出入りしていました。会長はすごく若いので元気で我々国際ゲストを学会の前日にはLajab渓谷の渓流アドベンチャー、、、帰国日には早朝から超高速ボートでのFarasan諸島ツアーを決行してくれました。命からがら、、のツアーでした。渓流では胸まで水に浸かって渓流を渡り、ゴツゴツの岩の中を登って降りたり、、ここで怪我したら、、、日本に帰れないだろうなあと思いつつ、Farasan諸島へのボートではこれで振り落とされたらサメのえさだな、、などと思いつつ、ちょっと命の危険を心配しながらの観光ツアーはほぼ初めてでした。。でもサウジアラビアにも砂漠ではない山や渓谷、海は未開発の素晴らしい資源があることを知りました。今度はもう少し観光地が整備されてから行きたいなと思います。それと私にとって最も衝撃だったのは、、これまで訪ねたイスラム教国のエジプトやトルコと違って、ホテルでも空港でもアルコールは一切禁ということです。ということでドーハへの行き帰りの飛行機を除く丸5日間完全禁酒を否応なく強制されたことです。これがすごいデトックス効果で、なんと異常値を出していたガンマGTPがほぼ正常化しました。食事はラムとチキンの煮込みやご飯が多かったので、本来は赤ワインがあると非常に美味しいと思うのですが、ダイエットコーラやセブンアップでは、、、今一つという感覚です。その為もあるかと思いますが、宴会はヨーロッパと違って、さっさと終わって8時開始でも9時すぎには終わります。欧米では12時過ぎまで飲んで踊っている会合、、、(特にスペイン)が多いのです。また終わった後の集まりもお茶を飲んだり水タバコを吸ったりという、ちょっと日本や欧州では考えられない習慣でした。
サウジアラビアは学会も国もとても若々しくて元気なところです。日本人も飲酒ができないことを除けば、色々貢献できることがたくさんあるように思いました。


 
と今回は雑談の方が主体となってしまいましたが、サウジアラビアレポートでした。
今後の私のブログは少し間が空くことになります。