2023年11月2日木曜日

続・岸田君に望むこと:教育と医療の大切さ

 センター長・脳神経外科顧問 森田明夫

また不遜な文章です。私自身政治が好きではなく(むしろ大嫌いで、学生時代はM青とかK○とかの立て看板がたくさん学内に立ててその傍で叫んでいる人(学生)たちがたくさんいたのですが、辟易していました。(国内の最も入学しにくい大学に入っている社会的に恵まれた環境の者が、社会の不合理を訴えてどうなるの?」という感想でした。)特にこれといった政治思想を持っている訳ではないことをまず先にお断りしておきます。
私の以前(日本医科大学脳神経外科部長の頃)のブログ(こちら)を読まれた方はご存知と思いますが、私は高校時代、現在日本の内閣総理大臣を務める岸田文雄さんと同級生でした。現在内閣支持率の低下で30%とか20%台とか騒がれていますが、大変立派に重責を背負われていると思います。
少子化問題や中国・北朝鮮・ウクライナ・中東などの外憂、円安、デジタル化など、解決のないことに大変苦慮されている姿が「大変だな~~」と本当に思っています。首相としてこれほど困難なことに立ち向かわれているのは、戦時中を除いてなかなかないのではと思います。
但し、経済対策軍事(防衛)を最も重要な課題として取り上げて対応しているのには少し疑問を感じます。どちらも非常に大事なのはわかるのですが、今の日本に最も求められているのはそれでしょうか?
 



話は少し変わります。数日前の日本経済新聞朝刊の2面に我ら二人の出身校の開成学園中学・高等学校の校長の野水先生がインタビューを受けていた(記事はこちら)。現在日本の大学入試ランキングは東大の入学数や医学部の入学数で決められることも多いが、開成のトップ10の生徒たちは東大ではなく海外の一流校(ハーバードやケンブリッジ、オックスフォードその他)を目指すようになってきているというのだ。英語の教育を徹底的に改革して、このような風潮になってきている。東大一辺倒な傾向より、広く視野を持つ人間を育てたいという趣旨であったと思う。日本の大学のレベル低下を危惧されていました。
一方でJR東海の新幹線の車内誌であるWedgeという雑誌に「日本の教育が危ない」という記事が時を同じくして掲載されていました(こちら)。あまりWedgeには信頼を置いていない私(以前みずほ銀行が潰れそうという記事がこの雑誌にあり、株を全部売ったところその後回復して、値上がりしてしまった経緯によります!大損しました。)ですが、今回は持ち帰って読みました。


詰め込み教育による「正解主義」という言葉がありました。現在の社会は先の岸田総理の課題ではないですが、正解やすぐにわかる解決策がない事由が多いこと。そのようなものを考えに考え抜いて、正解ではないにしても解決・改善できるような力・糸口を見つけられるような才能を日本の教育はつけていない。なるべく早く「答え」に到達するのが是とする教育が蔓延っている。という趣旨だったかと思います。そして最近は自ら「問い」をたてて考えられる人材が求められてきているようです。さらに教育者側の時間的窮状、余裕のなさ、それによる、一つのみの答えの問題を作ること!に走る傾向があることなどがデータとともに示されていました。ところが最近のチャットGPTに代表される生成AIの登場はそのような教育体制に根底からの危機を及ぼしている。質問を投げかけると、瞬時にAIがネットからの情報を収集して答えを出してくれるので、即答型の回答はもはや人間がすることを必要とされなくなりつつあるのです。まあまだ回答に誤りはそこそこありますが、日本の国家資格の中で最上位に位置する医師国家試験にも合格する実力をつけているというからこれは大変なことです。その他の職種や資格の試験などはスルーパスでしょう。まだチャットGPTを使ったことがある人は少ないかもしれませんが、色々なことをおしえてくれ、まとめてくれて助かります。例として「認知症にならないためにはどうしたら良いか?」という問いに対する答えを掲載します。


でも詰め込み教育が必要ないかというと、人間自分の中に知識や知見や経験が、人から見聞きしたものも含めてないと、答えがないにしても、解決策を導き出すことはできなくなってしまうでしょう。全てAIに聞いて決断しているようでは、益々人間のいる価値が少なくなってしまいます。同雑誌にあった他の記事ではこの人格の中の知恵を「溜め」と表現していました。人それぞれの判断は「溜め」とか個人の資質とか、知識・経験、人間関係や読み書きしたものからの知恵から出来上がってゆかないと、将来の世界はまるでSFの機械が支配する社会にまっしぐらに進んでいくように思います。そうなりたくなければ、そういった影響の少ない(遅れてくる)片田舎や、惑星や衛星に住むようにしないといけない社会がきてしまうように思います。

さて話が脱線しましたが、それやこれやで、私は日本が最も最初に、岸田首相が最も大切に、最も最優先課題として取り組まねばならないのは「教育」であると思うのです。話はかなり急を要します。というのは生成AIが世の中にデビューしたのが昨年の今頃で、この騒ぎだからです。日本が主導権を握って取り扱い規約を作るとか、日本発のシステムを京とか世界屈指のスーパーコンピューターを活用して作るとか、ぜひやってほしいと思いますし、日本のトップクラスの人材が努力してくださっていると信じますが、なかなか遅れをとっているな、、というのは中国から出てくるAIを用いた研究の医学系の雑誌への論文数と質を見ると思います。もちろんそれは医学だけの話ではないはずです。様々な学問、政治、経済、社会・教育にも全て及んでいるはずです。中国には、デジタル社会(架空空間)の中に建物や構造、交通そのままそっくりの北京や上海があって(デジタルツイン)どのようにものや人やお金を動かせば、街や社会がうまくいくかをAIに計算させているとのことです。ものすごい規模の事業です。現在のAIやデジタル社会の現状を把握して、AIとともに生きられる人間を作るにはどうするか?AIを制御・活用して社会に役立てられる人材を作るにはどのような教育をすれば良いのか?どこまで知識を持つ必要があるのか?などをよ~~~く考えて、教育者も余裕を持って教育にあたれる教育システムを作るべきと考えるのです。
例えば、日本の医学教育は、「教授」を中心に成り立っているわけですが、整形外科や脳神経外科、心臓外科などの、医療のスペシャリストで忙しく臨床をしている教授・部長が医学生の基礎教育を行い、シラバスを作り、、試験問題を作る。どう思いますか?そういった先生は自分の専門領域がどのように患者さんに生かされ、社会的価値をもつかということを医学生に教えるだけで良いのではないかと思います。欧米に行って、学生講義や試験問題作成の話をすると、、、先方の医師に驚愕されます。米国では医学教育専門のスタッフが充実していて、もちろん専門家にいろいろ意見を聞きますが、教育そのものの中心はその医療教育スタッフが行うのです。米国の臨床系の教授の役割は病院に医学生が回ってきた時に、いかに生きた医学を学ばせるかにかかっているのです。その面が日本ではやや(かなり)遅れています。特にコロナ禍で大変遅れました。余裕のある教育を各分野で行うためには、人的余裕とそれを支える経済的バックグラウンドが重要です。

そう。教育は未来の日本を作る人材を作る根幹なのです。ぜひ教育を真っ先に答弁の真ん中に持ってきて欲しいと思います。もちろん文科省の人たちにいろいろ指令されて様々な施策がされていると思いますが、不十分!だと思います。

次に大切なのは手前勝手ではありますが、「医療」です。日本の多くの病院は危機に瀕しています。コロナで多大な補助金が出ていたここ数年はなんとかなっていることころが多いと思いますが、来年以降は補助金は大きく減額または廃止されると思います。そしてその前から進んでいる診療報酬の改定(値下げ)とコロコロと制度の変わる補助システムへの対応が、医療機関の大変な苦境を作っています。昨年の方針は、2年後には廃止され、一生懸命それに合うシステムを作っても、それに対するインセンティブは廃止されてしまうのです。それは厚生労働省がこれという医療を推し進めたいがために、かなり恣意的な制度を作って、医療機関がそれに従わないとやっていけないようにして進めていっています。うまい方法と言えばうまい方法です。
日本の医療は世界のどこと比較しても質も量も世界一です。それを壊して欧米よりの大変逼迫した医療体制を作ろうとしているのではないかと危惧しています。皆さんご存じでしょうか、英国では脳腫瘍と診断されたのち、治療に至るのは1年半後だそうです。いくつかの種類の腫瘍では(ほとんど)、手遅れになってしまいます。米国ではそれほど悪くはないですが、医療の格差は大変なものがあります。日本の社会にそのような医療が求められているでしょうか?
病院の逼迫は、医療者への逼迫に必ず繋がり、日本の医療は今後地盤沈下してくる、安全・安心の医療が進められ無くなってしまうと思います。
日本の医療は世界一であり、世界に誇れる質を持っています。これを経済より優先することで、多分日本の経済の起爆剤にもなりうるのではないかと思うのです。日本にも日本医療機能評価というシステムがあって、かなり厳しく病院の管理体制を問われます。ただ今世界の病院は米国主流のJCI (Joint Commission International)という制度をクリアした病院が質の高い病院と言われています。日本のガラパゴス的な基準は世界に通用しません。しかしその評価を得るのに受験料だけで数百万円、その準備で数千万円という費用を要します。日本でもいくつか余裕のある病院はこの基準を獲得していますが、逼迫した一般の病院にこれを受けろといっても無理なのです。いくら質は近くても世界的に認められない。良い日本語の論文を書いても、世界では誰も見向きもしないのと同様です。日本の病院の半分とは言わず、10分の一くらいの病院がこれを取得すれば、日本の医療は世界に売り出せると思うのです。医療人が英語が喋れることはまた大事なのですが、これも教育の課題です。

最後に現在中心的課題となっている経済と軍事について一言。(ちょっと後半は問題視されるかもしれませんが、私は決してロシアやハマスを擁護しているわけではありません。)
私が渡米して9年間生活していたのは1989年から1998年です。特にバブルが弾ける前の頃は日本の経済は非常に強くて、円が世界最強でした。けれども交換レートは今とそれほど変わらず1ドル140円くらいだったと記憶しています。でもその1ドルの価値が非常に高く、見るもの全てがとても安く感じました。日本でマックのバーガーが300円した頃、向こうでは1ドル以下の89セントくらいだし、家を借りるのも月600ドルあれば3ベッドルームの庭付きの家がロチェスターという田舎では借りることができました。米国にいる時が今までで最も心が豊かな暮らしを(給与は安く、ギリギリの生活でしたが。経済的には安心感がありました)していたように思います。
今や米国に行くと狭いホテルが食事なしで1泊300ドル(4万5千円)は滅多になく、アパートは1ベッドルームでも月最低でも3000ドル(45万円)以上と聞いています。今や日本から留学、、、って経済的に無理。昔東南アジアやアフリカから米国への留学は一世一代の賭けのようなものだったのと同じような状況です。
今や日本は安くてお得な国と化し、日本も経済のインバウンド効果を求めて、中国やアジアの旅行客におもねって感謝している状況です。(悪いわけではないですが、日本の誇りってどこに行ったのでしょうか?)先日上野駅のホームに歓迎日本って中国語で張り紙してあったのですが、中国の旅行者は大きな声で電車内で騒ぐので、「車内では静かに」と中国語で書いて欲しいです。
でも海外に行かなければ、ワインや車などの輸入品を多く買わなければ日本は小麦や大豆を除けば自給自足もできる国土があります。地場産業があります。
トヨタのように世界に出て行って儲けてもらう企業には頑張ってもらって、国の中は国の中で、物価を抑えて、平和な暮らしができれば良いのではないかと思います。昨日も購入しましたが、美味しい朝じめの鶏のもも肉が五百円以下で買える日本って最高だと思います。
そんなに経済の強い国やGDPを競って突っ張らなくても、スイスやヨーロッパの各国のように誇りと自信を持って、自分の国の良いところをアピールできる国になれば、海外の観光客におもねらなくても、それほど経済に苦慮する必要はないのではないかと浅はかかもしれませんが、思います。とても苦労されていらっしゃる人が多くいる中で大変失礼ないいぐさで申し訳ありません。でも江戸時代の日本って幸せだったのではないかと思います。3,000万人くらいの人口に丁度良い国のサイズではないかと思います。先ほどの話とはやや矛盾しますが、AIやデジタルをうまく使って、人の足りない部分はロボットにしてもらう。そんなモデル国になれば日本の魅力はもっと増すのではないかと思います。「日本は教育と医療と科学の国」になるべきと思います。

さて戦争や国同士の諍いについてです。スイスで会った私の古い知人(サウジアラビアの王子で世界の地政学を研究している)が言ってました。
「日本はアメリカの言うことを聞きすぎるのではないの?」と。
今やアメリカの要望か、日本は対中国の軍備(防衛装備)に力を入れています。中国もあんまりだな、、と言う施策をすることも多々あるのですが、日本としては属国になる必要はないですが、日本が率先して、中国と敵対関係に陥る必要はないと思うのです。もし有事の時に米国は参戦するでしょうか?多分台湾と日本が最前線で戦い多大の犠牲を出す戦争になるかもしれません。今のウクライナも同様で、ウクライナの戦線に米国やヨーロッパからの軍隊はいません。経済的・軍備支援だけで、人的援助はしていないのです。いわゆるスラブ人同士で戦わせているだけなのです。中国とも同じアジア人同士で戦って、、という筋書きだよ。とのことでした。ちなみにロシアがウクライナに西側に近寄って欲しくない理由は多々あって、例えばウクライナがロシアの発祥の地であったこと。ピロシキだって、ボルシチだって、ウクライナの郷土料理です。ロシアの文化はウクライナの文化からなのです。だから主権とは言わないまでも仲の良い連合であって欲しかったのだ。とのことでした。
受け売りばかりですが、軍備費を増すよりも教育や医療、そして少子化対策への費用転嫁をして欲しい。
そして日本が率先して、中国と仲良くして、厳しいことも、辛いこともはっきり意見できる本当の友国になって欲しいと思うのです。日本がリーダーとなって種々の課題の交渉役を務めてほしい。中東やウクライナのトルコのように。トルコ。ちょっと軍事的になってしまっていますが、トルコは言いたいことははっきりいうしっかりした政治理念。国のあるべき姿を持っている国だと思うのです。
そうなるためには、ちょっと米国よりの方針を、下げても良いのではないかと思うので。私は米国も大好きですが、平和がもっと好きです。


 
雑記:
10月は様々な公的機関の方々と面談をさせていただきました。県議の出原議員と本プロジェクトへの支援、衆議院会館で小林史明議員と施設のデジタル化と、今後の本プロジェクトのあり方、福山保健局で細川総務課長と小規模運動施設の設置許可の件、そして新市の運動施設であるビッグランの小野社長と今後の小規模施設や運動施設のあり方などについてお話しさせていただきました。次々とわらしべ長者ではないですが、繋がりを紹介され、最初は何から手をつけて良いものやら途方に暮れていたのですが、少しずつ話す(依頼する)相手や人とのつながりなどができ上がってきていると感じています。
また10月前半の連休には府中外科会の超豪華な北陸旅行がありお供してまいりました。金沢での食事、錦秋の立山黒部アルペンルート(一部雪が降っていました)、神通峡、白川郷を巡る2泊3日の旅でした。近隣の外科の先生方のお話にも加わって楽しい時間でした。しかし、この辺りは広島ファンが多いですね。クライマックスシリーズ残念でした。その後ご一緒した楢崎先生から頂いた超おいしいビーフシチューのレシピを教わり、自宅で再現(とまではゆかないまでも)を挑戦し、かなり美味しい牛頰肉のシチューができました。なんとハート中山牧場(新市)では牛の頰肉を1Kg 2000円くらいで売っています。とても美味しいお肉でした。
10月後半は日本脳神経外科学会があり理事をつとめておりましたので、最後のご奉公で学会運営に携わってきました。学会の国際化には少しは役立ったかなと思っています。
朝夕がだんだん涼しくなってきました。もう年末となります。インフルも流行っているようですので、人混みではマスクをつける習慣に戻って元気に冬を乗り越えましょう。