高齢者健康医学センター 素戔嗚プロジェクトリーダー 森田明夫
先日、寺岡記念病院・ローカルコモンズしんいちの手作りマルシェ開催に併せて高齢者健康イベントを併催させていただきました。内容は私のイントロに続いて木村みどり講師による朗読会、そして板橋千代美講師によるWalking イベントです。どちらの取り組みもとても素晴らしく、板橋先生のWalkingイベントは好天にも恵まれ空気の澄んだ素戔嗚神社で、歩き方のエッセンスを学ことができました。
私のイントロは、これまでの私の40年超の脳神経外科医としての人生と、昨年1年間で学んだ高齢者の健康医学に関するエッセンスをまとめたもので、小冊子にまとめましたので、寺岡の外来においてもらうように頼みます。ぜひ手にとって参考にしてください。
今回はその10項目についてまとめます:
1. 生きがいを持って。いつも笑顔に!
生きがいという言葉は日本にしかないらしい。精神的な意味合いと(はりあい とか、心の豊さを求めること)、物理的な意味合い(裕福とか、金銭とか物欲など)を併せ持っています。生きがいを持って、社会との結びつきを持っている人たちは、健康でいることが多く、生きがいを保つためには、心に余裕を持って、ストレスをなくしていること、よく眠ることも重要です。そして、何をするにも笑顔を忘れないことです。欧米で行われた大規模研究でも、全く声出して笑わない人は、毎日声を出して笑わない人に比べて3倍認知症になりやすいと言われています。年齢・性別でみると高齢になるにつれて声を出して笑わない率が増えてくるし、その傾向は特に男性に強いそうです。「男は黙ってサッポロビール」ではなく、「男は笑ってエビスビール」を心がけましょう。ビールの銘柄は何でも良いですし、もちろんビールでなくても、皆で楽しく過ごすのが健康を保つ最も重要なことです。また後で朗読や歌や運動の話もしますが、特に筋トレなどしかめ面でやっているとロクなことはありません。膝や手首を壊す元です。楽しく笑顔で運動もしましょう。
2. さあにぎやかにいただく!
次に食事の内容ですが、「さ・あ・に・ぎ・や・か・に・い・た・だ・く」で代表される様々な食材を摂ることが大事です。偏食:特にカップラーメン毎日なんて早死にするための習慣です(かくいう私もカップラーメン大好きで、安藤百福さん(横浜に博物館がありますが)には足を向けて眠れません。)!週1回くらいにしましょう。
摂るべき食事で大事なのは、まずは水!です。水は1日に1Lを摂る必要があります。お茶やコーヒーはカテキンなど良い成分もあるのですが、カフェインは利尿作用があるため、もしコーヒーを飲むのであれば、その分倍水を飲む必要があります。欧米では1日1.5Lと言われていますが、日本の食事はパンのようなパサパサした物ではなく、ご飯のように食事そのものに水が含まれているものが多いので少し少な目でも良いとのことです。もう一つはタンパク質です。タンパク質は毎日失われているので、1日に体重の数字グラムのタンパク質を摂る必要があると言われています。肉には大体20%のタンパク質が含まれているので、体重60kgの人は鶏肉だけでタンパク質を摂ろうと思ったら300g食べないといけないことになります。それはなかなか難しいので、朝・昼・夕に魚や豆腐、豆、肉などに分けて摂って行くと良い。また骨やタンパクを体に同化させるのに活性型のビタミンDが必須とされています。きのこ類、魚介類、卵、乳製品を摂る。よく陽にあたるなどが重要となります。
また最初のバラエティ食の中で、とくに健康に良いとされるのが、果物とナッツ、豆、乳製品である。以前紹介したBlue zoneではそれらが良く摂られているそうです。
3. ゆっくり食べて腹8分目
食事の内容に加えて重要なのが、食事の仕方です。どうも脳神経外科医などをしていると心に時間的余裕がなくて、早食いになってしまいます。私など、また早食い競争をすれば優勝できるかもしれないくらい食べるのが早かったです。そこを堪えてゆっくり食べることが、血糖の急激な上昇を抑え、食べる量を減らせる秘訣です。そのための大事な秘訣は一口一口必ず箸をおくようにすることです。そして30噛、可能なら50噛すると良い。食物の中には糖質が多くて血糖値がすごく速く上昇する(その度合いをGlycemic index(GIと略す)といいます)もの(うどんとかパンの白いところ、ケーキとか)があります。これらのものを食べるときもゆっくり噛んで食べることで、血糖の上昇は抑えられ、余分な皮下脂肪が増えるのを抑えることができます。色の濃い食べ物、そばとかパンの耳(フランスパンの皮)、カボチャも皮付きなどはGIが低くて血糖上昇を抑えられるようです。よく噛むことは口の筋力を高めて高齢になった時のむせや誤嚥を防ぐ(そういうのをきたし易い状況をオーラルフレイルといいます)ことができます。くも膜下出血の予後と側頭筋(噛む筋肉)の厚さが関連するという報告もあるくらいです。口の筋力を鍛えておきましょう。
そして腹8分目で終えることが重要です。また食事量ですが、できれば朝か昼を最も多い量にして、夕食は軽くするのがBlue zone流です。特に夜9時以降(本当は8時と言われていますが、なかなか医療者には守るのは難しい)の夕食はただ贅肉になるだけなので、9時過ぎに食べるくらいなら食べない方が良いです。Eat breakfast like a king, lunch like a prince, dinner like a pauper.「朝食は王様のように、昼食は女王様のように、夕食は貧民のように」と言われています。朝食・昼食をしっかり摂りましょう。
4. 大きな声で、しっかり話す・歌う
朗読や歌は脳の賦活に非常に良いとされています。NHKの今日の健康では以前福山にお呼びした飯島勝矢先生らが声を出して朗読するのと黙読の大きな違いを示されました。前者では前頭葉も大きく賦活されます。そして認知機能も口の機能も朗読によって大きく保たれます。読むものは何でも良いのです。新聞の見出しや社説や面白い記事、絵本、詩など大きな声でハキハキとなるべく速く読むことが良いようです。寺岡記念高齢者健康医学センターでは2024年2月から朗読会を先に紹介した木村みどり講師にお願いして月1ペースで開催しています。そちらに参加されても良いですし、カラオケが好きなら、お友達とカラオケにゆくのも良いでしょう。お孫さんがいらっしゃるなら本を読んであげましょう!
5. 心豊かにしっかり歩く
歩くことはとても健康に良いのはどなたもご存知と思います。でも歩くならぜひ良い歩き方をしてほしいです。そのために寺岡記念病院ではWalking classを3ヶ月に一度時間を取ってPosture Walking講師の板橋千代美先生に来ていただいて講義、実技をしていただいています。特に大事なのが、後ろの足を残して歩くこと。手をよく振ること。目線を水平から上にすること。足の筋肉の付け根は鼠径部ではなくおへその上の胸腰椎であることを意識することです。そうすると自ずと胸を張って歩くことができるようになります。その時も、あらいい金木犀の香り、沈丁花の香り、桜の色、紅葉、新緑など意識しながらにこやかに心豊かにあることが大事です。しかめ面で、1万歩!!!って唸りながら歩いても身になりません。膝でも壊すのが関の山でしょう。ぜひ一度Walking classに顔を出してみてください。靴の履き方(紐の締め方)がとても大事なことも教えてくれます。そちらから教えてもらったシューズラボ Cueという福山宝町にある靴屋さんの店主松下さんは、とても詳しくて個人の足の形に最もあう靴と紐の締め方を伝授してくれます。「日本人は履き物は下駄や雪駄と同じだと思っている。靴は違うのです。欧米では一回ごとに靴紐を結び直すのはあたり前です。」と教えてくれます。
6. しっかり体操・筋トレ5分
テレビの筋肉体操でお馴染みの谷本道哉先生にも本年2月に福山に来ていただいて「人生110年時代を目指す自宅でできる筋肉体操」という講演と実技練習をしていただいた。先生が推奨された3つの運動は①超ラジオ体操 特に背筋を鍛える。しっかりと背中を動かす運動(春日さんのカスカス体操をしっかりする感じ) ②5分の自宅でできる3種体操(机腕立て。しっかりスクアット。椅子腹筋) ③手をよく振って、歩ける距離は歩く。「100mは車!」では100歳はおろか80歳でも元気でいられるかわかりません。①、②はYoutubeビデオがあるのでそちらを参照(アンダーラインの文字をクリック)してください。手をよく振って歩くためにはかっこいいリュックを背負うことです。そうすると両手が空きます。そして繰り返しになりますが、筋トレや運動は笑顔で楽しくやりましょう。
7. 友達を作ろう
あなたには何人友達がいますか?親友と呼べる人は何人いますか?自分のことを親身になって話を聞いてくれる人は何人いますか? 友人数は平均10〜12名くらい、平均親友は3人だそうである。米国では最近その数が減ってきているそうです。1の生きがいにも関わってきますし、Frailの最も有効な予防手段は、誰かと一緒に何かをすること(食事も、散歩も、運動も、朗読やカラオケも)だそうです。NEAT(Non-exercise activity thermogenesis)という言葉があり、これが最も重要な要素とのこと。友がいれば生きがいや張り合いも生まれます。話し相手、笑い。色々なことが生まれますね。
写真は私がスイスのジュネーブに昨年行った時、美味しいビストロで一人で食事をしていたのですが、傍の机ではイケおじたちがビール飲みながらしっくりと夕暮れを楽しんでいました。いい環境だな~~と思いました。
8. 酒・タバコ控えめに
タバコは炎症性物質を血液中に出し、さまざまな臓器を苛立たせてしまいます。喫煙が原因で肺がんや脳動脈瘤破裂などをきたします。絶対に体に悪いので、完全にやめましょう。では飲酒は?昔「酒は百薬の長」などと、適度な飲酒は健康に良さそうなことが言われていましたが、現在WHO(世界保健機構)では一滴の酒も毒!とされています。アルコールが原因で引き起こされた疾病で年間300万人が亡くなっているとのことです。でもまあ私も飲むのが好きな方なので、すぐさま止めるのは難しいので、イタリア サルディーニャ島(Blue zoneの一つ)の飲酒法から。カンノナウという品種(フランスではグルナッシュ)のブドウでできた赤ワインはポリフェノール含有量が多く、1日2杯飲むと健康に良いとされています。ですので、ギリギリ赤ワイン一日200mlまで。そして、水を倍量飲む、休肝日を週1~2日作る。ということで許してもらおうと思っています。
9. 塩・糖・脂控える(高血圧、糖尿、高脂血症加療)
高血圧、糖尿病、高脂血症は脳卒中や認知症をきたす三大リスクファクターです。どれも治療は可能ですので、ぜひ食生活の改善や治療で正常範囲にしておきましょう。
長年患者さんのMRIをみていると、ご高齢なのに本当にしっかりした脳で、曇りの一点もないひとがいらっしゃいます。そういう人は決まって、酒・タバコ一切せず、高血圧も、糖尿も高脂血症もありません。そういう脳の画像が理想的です。
それに加えて脳の大きな敵は不整脈です。脈が飛ぶ場合、必ず循環器の専門の先生にみてもらいましょう。不整脈(特に心房細動)による脳梗塞は非常に大きく重症となることが多いので、要注意!!です。
10. 年に一度は歯と全身の健康チェック
そしてぜひ年に一度は健康診断(ドック)と歯のチェックをしましょう。人間ドックでは血液少量からさまざまな癌の発症リスクもわかるようになりつつありますし、上下消化管の検査は日本人に多い胃がんと大腸がんを最も効率的に検知できる方法です。また心電図、心ECHO、腹部ECHO、頸動脈ECHO、脳のMRI, MRAではさまざまな危険因子を察知することができます。また最近注目されているのが歯の疾患と脳内血腫などとの関係です。脳出血の患者さんには歯がボロボロの人が多く、特殊な菌を保有していることが多いのです。歯のチェックもしっかり行いましょう。
以上私が考える脳の健康を保つための10項目を挙げました。人間の体は自分で努力したもの、食べたもの、飲んだものでできています。良い体には良い脳が保てるはずです。
みんなで、楽しく、笑顔で生きてゆきましょう。
雑談:
さて私ですが、4月から東京大田区にある東京労災病院という病院に本務を移しています。そちらでもブログ(別冊「労災の森」院長のブログ)を始めていますので、興味のある方はご覧ください。夜は羽田空港の発着を見ながら、料理して食べています。
イベント参加の皆様