2023年10月28日土曜日

高齢者の運動指導にも目を向けよう! 「スマート・エイジング・プラザ」の提案

 寺岡記念病院 高齢者健康医学センター

顧問 宮下 充正


趣旨

私たちが経験したことのない超高齢社会は、国家、自治体、家庭、高齢者自身にさまざまな困難をもたらしている。例えば、令和3年度の75歳以上の高齢者一人当たり医療費が、75歳未満の23.5万円に対して3倍以上の93.9万(前年比+2%)とか、医療費総額は44.2兆円(前年度比+4.6%)とか、経済的な側面においてだれがどのように負担するのかといった深刻な問題を人々に与えている。

この解決策として、厚生労働省は「地域包括ケアシステム」を提唱している。このシステムは、保険者である市町村、都道府県が地域の自主性や主体性に基づき、地域に応じて作り上げていくことが必要と述べられている。その中で、いつでも元気な暮らすために生活支援・介護予防を行う組織例として、老人クラブ、自治会、ボランティア、NPO等が挙げられている。しかし、高齢者を一括して対象としているため、いろいろな境遇にあるそれぞれの高齢者がどのように行動すれば望ましいのか、具体的な方策が示されていない。

 

高齢者を限定した提案

すでに入院治療を受けている場合を除けば、所有する資産の多寡によって、高齢者の生活する環境は下記のように、大きく3つに分類される。

  医療・介護が充実した有料老人施設で過ごす

  うまく入居できれば、特別養護老人ホームで過ごす

  入居先がなければ自宅で過ごす

3番目の自宅で暮らす高齢者は、例えば80歳代の夫婦のどちらかが介護する、あるいは、90歳代の親を同居する70歳代の子どもが介護する、といった老老介護と呼ばれる例が挙げられる。これら場合、厄介者として介護者に殺されるといった事件が頻繁に発生している。あるいは、一人暮らしの高齢者が、孤独死して数日後発見される事例が多くみられる。ちなみに、資産や身寄りがなく死亡した人数は令和3年で5万を超え、葬儀への公費負担が110億円であったと報じられている。

このような境遇にある高齢者たちを見逃さず、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義される「健康寿命」をできるだけ先に延ばし、幸せに死に至るための具体的な方策を提案したい。

地方自治体が支援してあげるのではなく、高齢者自身が主体となって小さな集団(10名程度)を結成して、それぞれに協力し合って「健康寿命」の延伸を図るのが出発点となるべきである。もちろん、自治体からの支援は必要であるが、集団の管理・運営には地域に住む元気な高齢者が当たるというように自主性が求められるといいたい。

 

施設の概要

高齢者の人口増加がもたらす経済的問題に直接かかわるのは、保険者である自治体の首長と健康・福祉の部門の職員たちである。したがって、集団は、自治体の力を借りて、居住する近くに空いた空間(空き家、使われない学校の部屋)を改修し借り受ける。あるいは、公園等の空き地に小屋を新築する。

これを「スマート・エイジング・プラザ」と名づけ、1つの集団が1日に2~3時間占有し運動、会話などさまざまな交流を行う。1つのプラザを、1日に3~4組の集団が利用し、1週間に3~5日借用するとすれば、最大に見積もると1週間に20組の集団、人数にして約200名の高齢者が交流し合うことができる。

 

エクササイズ

参加する高齢者が「健康寿命」の延伸するのがプラザの目標であるから、効果が上がるエクササイズの実践が主たる活動内容である。下記のようなエクササイズ・プログラムを実行し、一定期間継続すれば効果が期待される事実は、多くの疫学的調査、あるいは、介入実験などの科学的研究成果が明らかにしている。そのため、知識と経験のある健康運動指導士(者)の役割が不可欠であるといいたい。

 

1.“力強さ”を保持・改善するエクササイズ

力強さの保持・改善のためには、筋肉に負荷を与えて行うレジスタンス・エクササイズがよい。この種のエクサイズは、短時間の実践でも1週間に2~3日行えば効果が得られる。

 

①脚・腰を中心とした下肢の筋肉をはたらかせるには、腰、膝関節をやや曲げたかがんだ姿勢からの立ち上がり(スクワット)、あるいは、腰かけから立ち上がる運動が有効である。

例えば、腰かけに浅く腰を下ろし、胸の前で両手を組みやや速く立ち上がり、ややゆっくり腰を降ろす。1回の反復は約3秒かかるから10回反復で30秒間である。20回反復しても1分間で終わる。反復する回数を分けてもよいから1日に合計100回反復する。自分の能力に応じてできる回数から始め、疲れたら休息し反復する。しだいに連続してできるようになるから、とにかく1日に合計100回反復するのを目標とする。

 

         



 

②肩、上肢の筋肉をはたらかせるには、腕立て伏せ(プッシュアップ)が有効である。台の上に両手を置き、腕を曲げた状態からやや速く伸ばす、腕が伸びきった状態からゆっくり肘を曲げながら元に戻す。時間は反復で約3秒間かかるから、時間を分けて1日に40回反復する。運動の強さは、両手を置く台の高さがテーブル、椅子、床と、低くなれば強くなるので、自分の筋力に合わせた高さの台を選択する。最初は40回連続してできないだろうから休みを入れて何度かに分けて40回実施する。


       

③体幹(腹筋)をはたらかせるには、上体起こし(シットアップ)が有効である。仰臥姿勢をとり、両ひざを曲げて足部分を固定し、腕を胸の前で組んで上体をやや速く起こし、ゆっくり元に戻す。時間は約3秒間かかるから、10回反復する。時間を分けて1日に4セット行う。弱い人は、最初上体を床から上がらなくても上げようと腹部の筋肉に力を入れるだけでもよい。軽く上げられる場合は、ペットボトルに水を入れて両手で持つか、重いものを持ち、筋力がついてきたら重量を増やす。足先が固定された方やりやすいので、2人で交代に足部分を抑えてやる。とにかく、1日に合計40回反復するのを目標とする。

       


(レジスタンス・エクササイズ用の新しい機器は今仙電機製作所が開発中)

 

2.“ねばり強さ”を保持・改善するエクササイズ

ねばり強さの保持、改善のためには、腰や脚の大きな筋肉を、1日に低い強さで20~30分間活動させる。1週間に5日行えば十分効果は上がる。自宅とプラザまでの距離が適当であれば、往復を歩くか走れば十分である。とにかく、歩く、走るなどの反復運動が勧められる。

狭いプラザ内では、音楽(聞き覚えのある歌)のリズムに合わせて、ステップ・エクササイズを行う。“ややきつい”と感じる程度の速いテンポのステップを混ぜると効果が上がる。プラザの近くに安全に歩きやすい道があれば、天候のよい日に歩いて往復する。その際、歩く能力に合わせて、距離のわかる標識を100mごとに置き、自分が歩いた距離を確認する。


 

プラザの運営

緊急事態に備えて、医療機関との連携を取り決めておく。市町村、都道府県の関連職員と集団の代表が定期的に集まって、利用日、時間、内部施設の見直し、などを相談する。また、会費の徴収についても、検討すべきである。

とにかく実現可能な簡素な施設、設備でよいから、まだまだ深刻化する超高齢社会を乗り切るためにみんなで積極的に取り組むことが急がれるのである。