2023年5月9日火曜日

インドの混沌と刺激

センター長・脳神経外科顧問 森田明夫

インドに4日ほど行ってきたので、ちょっと今回は紀行文的内容で。インドに行くのは今回で5回目くらいなのですが、なかなか得られない経験をしたので紹介します。ご存知のようにインドは中国を抜いて人口世界一の国となっています。

皆様インドに入るのにはビザが必要なことを知っていますか?今ほとんどの国は日本のパスポートならNo visaで入国することが可能なのですが、インドはそうではありません。またこの取得がかなり大変で、先方での滞在先や引受人はもちろん、もうとっくに亡くなった父の名前や出身地、もちろん母親も。またもしもの時の日本での連絡先など。移民でもするのか?といった具合のビザが必要となります。オンラインで申し込めるのが救いですが、なかなか韓国とか台湾、その他Euro圏の国に比べるとハードルが高いです。またセキュリティーも日本のゆるゆるなのとは違って、ベルト、靴全て脱ぐ感じです。なかなか入国も緊張感があります。

さて入国しますと、今回はニューデリー空港から、アグラという約200kmくらい離れたタージマハールというムガル帝国時代の陵墓があるところで学会があり、そこまで車で参ります。なんとか学会で運転手を用意してくれて迎えに来てくれるのですが、これが、ほぼ5〜6時間の長旅です。特にニューデリーは混雑がひどくて、道路は3車線でも車は4〜5列で走っていて、常時クラクションを鳴らしながら運転するという具合です。本当にうるさいです。TUKUTUKUという3輪タクシーも多く走っていて、わらったのは後ろのホロにBLOW HORN!(警笛鳴らして)と書いてあるのが走ってました。どうしても3輪は4輪に比べてスピードが遅いので、鳴らしてもらわないと危険なのかと思います。

私も国際免許を持っていて、よく海外では運転する方なのですが、とてもとても、インドでは無理!と思います。


こんな国ですから、通常の精神ではとても運転などできず、常時周囲に注意を払ってぶつかられないようにしながら、自分の進む道も主張しないといけないわけで、当然とても意見の強い人たちが生まれます。学会でもインドの人たちはとてもよく喋り、よく主張します。喧嘩というより話合い筋道をつけてゆく。という感じで、ほぼ車の通行と同じ感じです。

日本だと、例えば車でプーーっと鳴らされただけで頭に来て、喧嘩になったり暴力振るったりということもありそうですが、インドでは全くそんなそぶりはありません。学会での討論でもそうで、日本だと学会で意見を言うと何かわだかまりのような雰囲気がうまれてしまうことも多いのですが、インドや海外ではまずそういった心配はなく、意見をいったもの勝ちで、後はすんなり親しくなってます。そういう社会なのです。

さてでは脳神経外科のレベルはどうなのかと言うと、10年くらい前まではインドから多くの脳神経外科医が日本の大学・施設に見学に来ていましたが、日本は脳腫瘍なども早期に診断されますので、小さ目の腫瘍が多いのですが、インドでは非常に大きな怪物のような腫瘍の症例がたくさんいるので、非常に密なトレーニングが積まれており、かなり技術レベルも上がっているように思います。これは南米も同じです。南米やインドの脳神経外科のレベルは以前はこちらが教えてやっていたんだなどとバカにできないほど進歩しています。日本の技にこだわった手法もうまくとり入れて、それをインドの無尽蔵な症例に適用して成長しているように思います。

半導体とか、色々な科学技術の分野でも同じようなことが言えるように思います。


今回アグラは
2回目ですので、タージマハルを見てもそれほど感動はありませんでしたが、とても綺麗な整然とした陵墓です。最初は相当感動しました。インドは対称デザインが好きですので、やや日本人とは異なる美意識ではありますが、大理石や埋め込まれた装飾など素晴らしいものがあります。


さて今回学会の都合で帰りの飛行機に乗るのに一泊余計にしないといけないのでデリーに宿泊してみました。これまでインドでは学会がとってくれる大きなホテルに宿泊していたのですが、これらのホテルは市中の雑踏からは隔絶されて、城郭のような塀の中に守られているようなところでした。今回はデリーの旧市街を経験したいと思って、旧市街の真ん中の4つ星ホテルを予約してみたのです。予約がキャンセル不能な料金だったので非常に不便そうなところにあるのを知っても変更できなかったのですが、ホテルには車はつけられないほど細い路地に面したホテルだったのです。すごい雑踏とクラクションの中で車を降りて、そこまでホテルのボーイさんが迎えに来てくれました。ホテルまでの道は筆舌に尽くしがたく、スラムのような迷路の中を歩いて行きます。ただホテルの中は素晴らしく。レストランもとても素晴らしかったです。おそるおそる外へ出て散歩して、チャドニチョークと言う旧市街の中心路まで行ってみたのですが、海外の観光客はスリに狙われることが多いので、1000ルピー(1800円くらい)をポケットに入れて財布は持って行かないほうが良いとうサジェスチョンに従って、iPhoneの地図に頼って散歩を決行しました。前回のブログに書きましたように私は歩くのは好きなのですが、なかなか今回の散歩は勇気が必要でした。「デリー旧市街の散歩」は筆舌に尽くし難いスリル満点、「うわ〜〜〜」と言うような経験でした。まず建物はどこも崩れそうです。ユネスコ世界遺産に指定されているので、建物の外装は変更してはいけないと言う法律があり、これも2〜300年たった建物なので、崩れかけていたり、直そうにもお金が掛理すぎてそう簡単にはできないそうです。道は狭く、ゴミは散乱、どこからきたともわからない水っぽいところもあって、踏まないように歩くには苦労します。そこにパイクや時に自転車でのタクシー(リキシャー)が通り、これもクラクション鳴りっぱなしです。自身がテレビゲームの中に入ってしまったような錯覚に陥ります。

日本も昔は大阪とか東京の下町も同じような雰囲気だったのかもしれません。インドにはものすごく多くの人がいて、何か地面から気が湧き出すような力を感じます。カオスの力なのかなと感じます。そんな中で、多くの子どもも生まれ、車の運転や学会での議論に通じるような無茶苦茶にかき混ぜながら、教育を受けて、育つのでしょう。インドはとても伝統があり古い国ですが、新しい力に満ちている。と感じました。インドにいると本当に1日1日疲れ果てるほど刺激を受けます。うまく表現できないのですが、日本のゆったりとした空気感がなく、いつも何か新しいことをして考えていないといけないと言う圧迫を受けている感じです。


一方で日本は、明治維新や第二次世界大戦後など、内から、また外からの刺激によって時代のターニングポイントがあって、変化・革新してきたように思います。今は何かこの戦後80年になろうとする安定と栄光・繁栄の記憶の中に沈んでいっているように思います。

今のインドに戻る必要はないと思いますが、なにか日本の社会、日本人にカンフル剤となるような、地面から湧き出るようなエネルギーがないかな?と思ってしまいます。

いずれにしてもうかうか歳に負ける訳には行きません。まずはよく運動して個人レベルだけでもエネルギーを発せるようになりましょう。

ついでに料理のことですが、私はもともと辛いもの、インド料理は大好きなものなのですが、インドでは生物は食べてはいけません。必ずお腹を壊します。(あのような地面に置いてある野菜を買って調理しますし、水も綺麗ではないので、菌も一緒に食することに多分なります) それでもインドの食事は、スパイスや素材の使い方がうまく、よくわからない深い味を出しており、本当に感動します。今回ついでに料理教室にも2時間ほど行ってみましたが、自分でインドカレーを作れるようになる日を夢見ています。




今回はあまり高齢者健康医学に関係する話題ではなかったですが、いつも刺激を受けて、疲れ果てるほど1日1日を過ごしていると認知症になりにくいのかなと思います。実際にはインドの認知症率は知らないのですが、もともと健康寿命は衛生の問題もあり短いので、問題にならないのかもしれません。

落ち着いた平穏も良いですが、週に2日くらい心と体に刺激的な予定を組んでみましょう。運動でも、会話(議論)でも、朗読でも。議論でも。