運動・発声(朗読)・健康食の勧め
センター長・脳神経外科顧問 森田明夫
初めて本プロジェクトでのブログを書かせていただきます。この度2023年4月に寺岡記念病院・高齢者健康医学センターの立ち上げを拝命しました森田明夫と申します。これまでは大学病院や市中病院、米国の病院などで臨床を中心に、研究・教育も含めて従事してまいりました。
1.
なぜ高齢者健康医学センターか?
さて、現在日本全体、また特にこの中四国地方では、人口減少と少子高齢化がものすごいスピードで進行しています。2050年には日本の人口は1億人を下回り、65歳以上の人口は40%弱になると予想されており、2100年にはなんと人口は5000万人を下回り高齢者の率は47%に達すると予想されています(図1)。つまりこのままでは日本は人口が半分になり、生産年齢はどんどん減る一方ということです。生産人口が最高だった2005年の8700万人(全人口の66%) から2050年には4900万人(同52%)に減じるとされています(図2)。また人が住まない地域も増えてきて、特に中四国では無居住化する地域が非常に増えるだろうと予測されています(図3)。少子化対策として政府も地方自治体も必死な対策を講じていますが、実際にはあまり効果が上がっていないというのが現実です。ではどうしたら良いでしょうか?唯一の対策は高齢者で働ける人を増やす、そして元気な高齢社会をつくることが重要と考えるわけです。私も昨年65歳を迎えましたが、こうして新しいことに少なくとも後10年は努力しようと考えています。先に紹介した自分の紹介ページにブログがありますが、私は数年前はかなりデブデブしていたのですが、このままでは早死にすると一念発起し、テレビで宣伝されている◯◯◯ップという高額スポーツジムで洗脳され、運動が好きになり、食事もかなり気を遣うようになりました。一時は14kgくらい痩せ、体脂肪も12%くらいまで落としました(図4)。しかしもともと私はグルメ(B級)ですので、なかなかサラダチキンばかり食べていると気が滅入りますので、少し戻って(いわゆるリバウンドして)しまっていますが、なんとか-10kgでこらえています。痩せて良かったのは、軽くなったので歩くのが楽になったことと、寝ている時に横を向かないでも安眠できるようになったことです。以前は横向かないと、息苦しく感じていました。血圧も若干下がりました。いわゆる皮下にパンパンに脂肪があれば(昔はお腹パンパンしてました)、それだけ身体の中の圧が高くなりますから、血圧は太ると自然と高くなるわけです。また代謝も向上して、少し歩くだけで小汗を掻くようになりました。もちろん私も医学を学んだのですが、昔学んだことはほとんど忘れてしまっているのですが、細胞のTCAサイクルやミトコンドリアとやらが元気になっている気がします。運動と食事に気を遣うだけでかなり健康になれることがわかります。
2.
素戔嗚プロジェクトの取り組み企画
さて話が自分の話にそれましたが、この高齢者健康医学センターは新市の『てんのうさん』こと素戔嗚神社にあやかって素戔嗚プロジェクトと命名しています(勝手に名前つけてますが、しっかりお祈りをしています)。行動の柱は、地域の住民の方、ご高齢の方が元気な生活を送れるようにすることです。実現のために、市民の方向けの講演会や、こういった文書や冊子、ネット情報などを駆使し、最新の科学に基づいた健康に良いことの情報を広めること。また定期的な市民むけの歩き方教室や『みんなで歩こう集会』、『朗読しましょう集会』、スローステップ運動、小規模筋トレ施設・コースの開設、健康食の教室などを企画してゆきます。できれば地方自治体にも協力をお願いして、地域全体の健康のレベルアップを目指すきっかけとなることを目指しています。目指すは福山・府中(新市)は健康になれる街という街ブラントを確立すること、ひいてはここに住みたい人が増えてくれることを夢見ています。また近隣の医療機関や大学、企業とも協力して、がんや脳卒中、認知症、糖尿病の早期治療・予防医療を充実させて行きたいと思います。これはいわゆる先制医療と言われるもので、日本が人間ドック・脳ドックでは世界の最先端をはしっています。これを積極的に導入して行きます。まず本センターでは月曜・火曜の午後に脳ドック実施日を増やして対応することにしています。脳のわずかな病変やその恐れの所見を検出する脳MRI・脳血管の評価、食生活が欧米化したことにより増えている頸動脈(首に脈が触れる血管)の動脈硬化をチェックする頸動脈超音波検査や血液の検査、認知症の検査などを半日ほどで実施できます。生活習慣指導もさせていただく予定です。この実施によってくも膜下出血や脳梗塞、認知症の予防に向けた取り組みが可能になると考えられています。
また本プロジェクトでは地域での、現在の認知症やフレイル(足腰や精神の弱ること)、癌、糖尿病の罹患状況を、個人情報には十分に配慮して調査を行う予定です。さらにご同意のいただける住民の方からは、生活習慣の詳細(食生活や運動の状況)、唾液、血液、便のサンプルをいただき、将来に向けてストックして行きたいと考えています。そのサンプルは将来皆様がなんらかの病気を発症した際に、何が悪かったのかを解明する糸口になり、ご本人の予防にも、また未来の人たちの医療にも貢献できると考えています。赤身のお肉や脂肪ばかり食べていると腸内細菌が作る代謝産物が動脈硬化を促進し、心臓発作や脳梗塞をきたすきっかけとなることもわかり始めていますし、動物実験ではそれらを抑えることで病気が防げた例も示されています。現在我々は国立循環器病研究センターや大阪大学等と協力して脳動脈瘤や脳卒中と口腔内細菌、腸内細菌との関わりを調査している最中です。
3.
健康食
さてまた私の話に戻ります。私がまず◯◯◯ップで洗脳されたのは、できる限り糖質を制限して、タンパク質をより多く摂ることです。では飲みに行ってはいけないのかというそんなことはありません。居酒屋のつまみにもとても高タンパク・低糖質なものがあります。シメサバやマグロなど最高の健康食です!基本糖の含有量は色で見分けることができます。一般に白いもの、暖色系の食べ物は糖が多く、その吸収速度が速いと言われます。この糖の吸収しやすさをGI指数(グリセミックインデックス)といいます。より早く血中の糖が吸収されると脂肪・贅肉になる可能性が高いのです。うどんよりはそば、白米よりは玄米や黒パンの方が良いわけです。カボチャも黄色いところだけではなくて緑の皮まで含めて食べるとGI指数は低くなります。私の個人的な経験での味方食と敵食を上げておきます(図5,6)。でも時には敵も食べないと精神衛生状良くないので、食べますが、できれば、そのつけは週のうちに解消することが重要です。木曜や金曜にラーメン食べたら、土日はかなり節制が必要ということです。素晴らしいのは、最近一見敵のようでも味方の食が開発されてきたことです(図7)。日清食品様様です。その他コンビニチェーンでも色々な工夫した健康食が販売されています。
またアルコールはビールや日本酒よりも、赤ワインとか蒸留酒(ウイスキーとか焼酎)が良いです、でもアルコールの大量摂取(一般に2合以上、ワインボトル半分以上、ウイスキーショットグラス3杯以上)は大病のもとです。酒は百薬の長と言われますが、それはそれ以下にとどめた場合です。例えば私が専門とするくも膜下出血はアコール40グラム(ちょうど2合)までは発症は普通より減りのですが、超えた途端に発症率が2~4倍に跳ね上がります。皆さん二日酔いになった時の体の中の違和感ってわかりますよね。アルコールによって、体の中の悪い魂が踊っているのです。ですので、お酒は飲んでも2合まで!
本プロジェクトでは、寺岡朋子先生にご指導いただいて、そこまで極端でなくても、より健康に配慮した食事のあり方を広めてゆきたいと思います。
◯◯◯ップで学んだ10ヶ条を挙げておきます(図8)。
4.
より良い歩き方
NHKラジオの愛好家は多いと思います。私は渡辺ひとみアナウンサー(土日のまいあさ担当)と伊藤みゆき気象予報士(月〜金曜まいあさ担当)の大ファンですが(関係ない!)。特に月~金曜の5時台に健康ライフという番組(5:35分頃からです)をやっています。これは珠玉の情報番組です。ぜひ皆さんも聴いてほしいと思います。その中でずいぶん前ですが、東海大学の黒田恵美子先生という先生が一生歩けるような運動の仕方、より良い歩き方の指導をしていました。一度本プロジェクトでもこの先生をお呼びしたいと思っていますが、ブログに少し紹介していますので、ご覧ください。
この番組の要はストレッチが大事(図9)、一生歩くための運動(図10)、より良い歩き方(図11)に集約されます。下手くそな絵で申し訳ありません。一番大事なのは、手をよく振ること(45度 前・後に)、目線を水平にして遠くを見ること(こうすると腹筋が少し緊張する)、足の指で地面を掴むような気持ちで歩くことだそうです。私もこちらに来る前には毎朝2km歩いて病院に行き、帰りも歩いていましたが、今やここでは皆さんと同様(?)に車生活です。歩数が大幅に減少しました。やはり定期的に歩く習慣を本プレジェクトではこの地域に広めて行きたいと思います。
5.
コグニサイズ、スローステップ運動や大声朗読のすすめ
その他の取り組みとして、運動をしながらしりとりや何か頭を使うことをすると認知症の進行が抑えられると国立長寿医療研究センターで進めている『コグニサイズ』という運動方法があります。当院でも積極的に取り入れ、本プロジェクトの運動講習会や当院のリハビリ・介護施設で取り入れてゆきたいと思っています。またあまり良い散歩コースがなかったり、真夏や真冬でとても外で運動する気にならない時に家の中でも十分運動になるステップを用いた『スローステップ運動』の指導、そして、大脳の前頭葉の機能を向上して、高齢になると衰え始める咀嚼嚥下機能の低下防止にも役立つ『大声を出しての朗読』を広めて行きたいと思います。実は当院関連の介護施設で取り入れたところ、大声を出して周囲を困らせていた人に発声朗読を促したら、朗読の時しか大声を出さなくなり、周囲の人も朗読に聞き入るという良い事例があったとのことです。新聞の社説とか、エッセイ程度で良いので、週に2〜3回家の中じゅうに響くくらいの大きな声で朗読をしてみましょう。やはり元気のないお年寄りは声が小さいと感じます。張りのある大きな声が出せる練習をしておきましょう。
おわりに
ながながと素戔嗚プロジェクトの説明をしましたが、要は自分が良いと思ったことを皆様に広めたいという気持ちです。埼玉県生まれの私には新市は第二のふるさとみたいな感覚です。40年前に25歳で初めて赴任した時は、周りに関東では見ることのない美しい山があって、また道にはスナックかなにかの『新市は美人の街』という大きな宣伝が飾ってありました。刺身といえばマグロくらいしか知らなかった私ですが、特に瀬戸内海の魚や山のものなど食べるものもとても美味しくて、またとても看護師さんたちも美しく(今も同じ看護師さんたちがいらっしゃってとてもお美しいです!)、いい街だな〜〜と思いました。その後人生の節目節目でこちらの病院でお世話になっています。本プロジェクトが軌道に乗って、『新市は100歳まで元気に暮らせる街』(図12)というプラカードが道に飾れるようになることを目指しています。